第六章


[01]団結@


「ヘーゲル中隊長!!」

地下通路から地下水路外城壁の回廊を抜け、再び城壁に登ったところで、声が響く。

「ラーゼン!!」

第五小隊のヴィクトリアン=ラーゼンだ。

彼を先頭に、第二中隊の隊員たちが続々と走り寄ってくる。

「中隊長、これは何事ですか!?」

そう、ヴィクトリアンの後ろから声を掛けたのは、亜麻色の髪を切りそろえた実直そうな男。

「ダンジェっ!」

中隊長付き補佐官ダンジェ=ヴァルト。頭脳労働向きではないサイクレスを影で支える、腹心の部下だ。

外城壁でサイクレスに遭遇したヴィクトリアンの迅速な行動により、眼下では第二中隊が瑠璃の門を背に半円の陣形を完成させつつある。

執務室に駆け込んできたヴィクトリアンを始めとする第五小隊から事情を聞いたダンジェは、すぐ様行動に出た。
寝ている隊員たちを叩き起こして武装させ、瑠璃の門に向かったのだ。

「何故、我が連隊本部が国家警備軍などに包囲されるのです?」

指示通り完璧な陣形を組んだはいいが、納得のいかないダンジェ、サイクレスに詰め寄ってくる。

「それは、あなた方の副隊長殿が拘束されたからです」

しかし、質問に答えたのは蒼だ。
柵に手を掛け、城壁から見える陣形に素直に感心している。

「サイクレスさんは優秀な部下をお持ちなんですねぇ。見事な包囲です」

口笛でも吹きそうだ。

「フレディス副隊長が拘束?一体どういうことですか、中隊長」

誉められてもそれどころではないダンジェ。益々サイクレスに詰め寄ってくる。
周囲の隊員たちもサイクレスを囲み、食い入るような視線を注ぐ。

一方、何と答えたものかと逡巡するサイクレス。思わず蒼の方を見る。

しかし当の蒼は溜め息をついて肩をすくめた。

「・・・・・私が説明しても仕方ないでしょう」

みなサイクレスの部下なのだ。見ず知らずな自分の出る幕ではない。

「・・・それはそうなのだが」

煮え切らない態度になるのは、サイクレス自身状況が飲み込めていないから。うまい説明など思いつかない。

「失礼、あなたは?」

二人のやり取りを見ていたダンジェが、蒼に水を向ける。

蒼はこんなときでも泰然と落ち着きを払っている・・・ように見えた。

その前髪、羨ましい。

ちょっぴり、表情を読みとらせない不気味な外見を羨むサイクレス。

「あーこの方は、ど・・」

「申し遅れました。私、町外れの薬問屋に勤めておりますソウと申します。以後お見知りおきを」

サイクレスに被せて、滑るように自己紹介する。

どうやら、毒操師の身分は黙っておけということらしい。

「薬問屋・・・・・」

「はい」

訝しげなダンジェはサイクレスを仰ぎ見る。

「あ、ああ、そう。ソウ殿はこの度の件に協力いただいているのだ」

もたつきながらも何とか話を合わせるサイクレス。

「協力・・・・!」

僅かに考えむ素振りを見せるダンジェ。しかしその時、ダンジェが何かに気付いたかのように目を見開いた。


一瞬の沈黙、そして。

「・・・・ソウ様でしたか、この度はご足労、ご尽力ありがとうございます。私は近衛連隊第二中隊長補佐官ダンジェ=ヴァルトと申します」

急に態度を改めた。

サイクレスという鈍い上司の補佐を勤めるダンジェ、頭の回転が早い。どうやら蒼の正体に気付いたようだ。

「いえ、こちらこそご迷惑をおかけします」

蒼も気付かれたことに気づいたが、何食わぬ顔で話を合わせる。



そして改めて眼下の国家警備軍に目を向けた。

「みなさん、あれを見てください。赤旗、審議会弾劾部です。あなた方の副長、ファーン=フレディス殿は拘束されます。罪状は殺人」

「!!!!」

その言葉に全員が驚愕し、柵へ乗り出すようにして国家警備軍陣営の先頭に目を向ける。

「本当だ。赤旗だっ」

「審判の鷹が見える、間違いないっ」

「副長が殺人!?」

「俺たち、どうなるんだ?」

「いや、それより包囲してしまっていいのか?」


ざわざわと騒ぎ出す隊員たち。その顔には不安がくっきりと浮かび上がっている。

「静まれっ! 狼狽えるなっ」

しかし、岩よりも固く冷徹なまでに厳しい声がそれを一喝した。

中隊長のサイクレス、ではなく、補佐官ダンジェが石にでもされそうなほど恐ろしい形相で一同を睨みつけ、否、見つめている。

「・・・・・」

一発で静まる隊員たち。

隊員教育は完璧だ。

この中隊長補佐官ダンジェという男、ただ者ではない。

その証拠に上司であるサイクレスさえもちょっとびびっている。

ダンジェは続けた。

「中隊長のお考えも聞かず無駄口ばかり。以後勝手に発言したものは、懲罰房10日とする」

場は、更に静まり返った。

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