恋×2(完結)


[03]桜の下で




始業式も、HRも終わって、生徒は一斉に帰りはじめる。
明日の実力テストのために、最後の追い込みをしようと思うヤツ、諦めて遊びに行くヤツ。目的はいろいろ。けど、さっさと校門を出て行くのは、皆同じだ。


俺も、靴を履いて玄関を出た。
けど…校門にまっすぐ向かうことは、できなかった。

青木が、思いつめた顔で俺の横を通り抜けて、違う方向へ向かったから…
そんな顔をされたら、マジで気になる…


今日の青木は…いつもと違う。


何があったんだよ…
そんな顔する原因はなんだよ…
ってか、誰だよ…ってアイツか?
あのバ彼氏か…?


俺が見たことのない表情を浮かべたまま、青木は体育館の裏に向かった。


そこには、満開の桜の木。

その木の下で、青木はしゃがみこむ。
膝に顔をうずめて、肩が小刻みに揺れている。

距離を縮めていくと、嗚咽がもれ聞こえてきた。

嗚咽がかろうじて聞こえるほどの距離から、青木を見守った。
木の陰に入ってるから、青木からは俺が見えないはずだ…

本当は、“どうした?”って、すぐにでも声をかけたかった。
でも、青木は誰にも何も言わずにここに来てるんだろう。たぶん、泣き顔を…泣いてるところを見られたくないんだろう。なんとなく、そう思った。だから、泣き止むまでは…、肩の小刻みな揺れが、収まるまで待つことにした。



しばらく経つと、肩の震えが止まって、嗚咽も聞こえなくなった。
今なら、話しかけても大丈夫だろうと勝手に判断して、青木の方へと足を向けた。


「なにやってんだよ、青木」
「…な……」
絶句した青木は、俺を睨みつけて立ち上がった。
どこか力なく、ゆらっと…


そして、青木の力のない全身から、突然、力が抜けた。

俺の目の前で、傾く青木の体…
傾くのが見えた瞬間。支えるために手を差し出していた。

直後に感じる、重み。
気を失って倒れたんだと、気がつくまでに少し時間がかかった。

「どこまで、無理してんだよ…お前…」

ため息混じりの言葉に、返事は返ってこなかった。


「よっと…」

肩と膝裏に手を入れて、青木を抱える…
青木は思った以上に…軽かった。


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