黒猫の君と白猫の僕(君と私番外編/完結)


[09]動物病院へ


その日の練習は、あっという間に終わった。
おじいちゃんはいつも通りで、僕も他の子もいつも通り。
大きい子は組み手をして、小さい子は正座か型の練習。

ただ、違ったのは僕の心の中。
正座をしていても、辛くなかった。

万が一にも誰かを傷つけたくはなかったから…
小さいなりに我慢していた。
足がしびれてよろよろ歩きになって笑われたけど、なんだか気分は晴れやかだった。



おじいちゃんには謝った。
許してもらえたような感じだった。

お父さんは…
お父さんは、猫を飼うことをちゃんと許してくれるよね?
勝手に、保健所に連れて行ったりしてないよね?


急に不安になったから、家まで走って帰った。


―――――――――――――――――――――――――


「ただいま〜」

玄関を開けると、黒い大きな革靴があった。
お父さんの靴だ。

「智、出かけるぞ。鞄を置いたら、すぐ行くぞ」
「どこに行くの?」
「いいから早くしなさい」

何も言い返せないほどの迫力で、お父さんが言った。
どこに行くのか教えてくれることはなく、僕は言われたとおりに鞄を置いて、玄関に戻ってきた。

「よし、行くぞ」


玄関には小さな箱を持ったお父さんが立っていた。
その箱からは、かさかさという音とあの子猫の鳴き声。


「お父さん、その子を連れてどこに行くの?」
「……病院だよ。動物病院。いろいろ、聞かないとわかんないだろ?」


オスかメスかもわかんないんだから…と、お父さんが小さな声で言ったのが、なんだかおかしかった。


「飼っていいの?」
「約束だからな。ちゃんと世話してやれよ。行くぞ、智。この箱はお前が持ってくれ」
「うん」


手渡された小さな箱を、両手でそっと抱えるとほんのり温かかった。

その箱を膝の上に抱えて、車に乗った。


本当は箱を開けたかったんだけど、お父さんに怒られそうだから、やめといた。


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