黒猫の君と白猫の僕(君と私番外編/完結)
[06]お願い2
子猫を拭いていた手が止まった。
ドキドキが、止まらなかった。
「おかえりなさい」
「ただいま。智、今日…」
お父さんの目が、子猫を見つけた。何か言おうとしてたのを止めてしまうくらいに、驚いていた。
ドキドキが、お父さんにも聞こえるくらいに大きくなったのがわかった。
言わなきゃ。お父さんに、ちゃんとお願いしなきゃ…
「あのね、お父さん。…公園でね…この子を拾ったんだ。それでね…」
「だめだ。明日、保健所に連れて行きなさい」
全部を言う前に、お父さんは硬い声で言った。こんな声を出す、お父さんは初めてだった。
顔も、怖い顔をしていた…
「…なんで?なんで、ダメなの?」
「なんででも、だ」
お母さんと話した時とは違って、泣かなかった。だって、保健所に連れて行ったら…
この子は、きっと…
殺される…
それは、お父さんの怖い顔と声より、怖いんだ。
「お父さんのばか!保健所ってところに連れて行ったら、殺されちゃうんだよ!!」
子猫を胸に抱きしめて、お父さんを睨んだ。
もう、お父さんなんか、怖くない。
「智!!」
バスタオルを抱えたお母さんが、怒った顔をしていた。
でも、僕もなんとなく怒っていた。そう、なんだか…怒っていた。
「だって、お父さんが…保健所に連れて行けって言ったんだ!!そんなとこに行ったら、この子、殺されちゃうんだよ!!僕、そんなの嫌だ!!」
お母さんに向かって、大声で怒鳴っていた。
「でも、お父さんに、ばかって言っちゃだめでしょ。謝りなさい」
「………お父さん、ごめんなさい」
悪いなんて思ってなかったけど、お母さんまで怒らせたくはなかったから、とりあえず謝った。
「お父さん。この子のお世話は僕がする。全部するよ。だから、許してよ。保健所なんかダメだよ。かわいそうだよ…」
「父さん。俺も、そう思うよ。保健所は…ないよ。俺も、智を手伝うから…飼わせてよ」
いつの間にか、物置から戻ってきたお兄ちゃんが、僕の味方をしてくれた。
びっくりして、お兄ちゃんの方を見たら、僕の頭をぽんぽんと叩いた。
「父さん、智も頑張るし、俺も頑張るよ。だから、飼わせて…」
「うん。僕もがんばるから…お父さん、お願い」
お兄ちゃんと二人でお願いしてみたら、お父さんはとても困った顔をしていた。
そして、何かを考えていた。
「智。今日、おじいちゃんの道場を追い出されてたんだってな」
「………うん」
「じゃぁな、明日になったら、謝りに行って来い。…きちんと、謝れたら…許してやる」
「…本当?」
「ちゃんと、謝らないとダメだからな」
「…うん」
父さんは、お兄ちゃんと同じように、僕の頭をぽんぽんと叩いた。
それは、頑張れよっていう、お父さんなりの励ましなんだろうな、と思った。
子猫を飼えるようになったんだ。
でも…、おじいちゃん…
怒ってるんだろうなぁ。
黙って、帰ってきちゃったし…
…明日、どうしよう…
「さ、遅くなっちゃったわね。ご飯にしましょう。その子には、牛乳をあげましょうね」
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