黒猫の君と白猫の僕(君と私番外編/完結)


[04]捨て猫3


「ちょっと、なにやってんの!」
いきなり、後ろから怒鳴られた。
怒鳴ってきたのは、知らない子。なんだか、とても怒ってるみたいに見えた。
「なにって…何もしてないよ」
「だって、猫、捨てようとしてるじゃない!」
「…僕が、今、拾ったんだよ」

「みゃーう」
子猫が、返事をするかのように鳴いた。


「ごめん」
「別に…いいよ。…猫、好きなんだね」
「うん!」
小さな声で謝ったその子は、笑顔でうなずいた。

「ねぇ、その子猫飼うの?」
「…」
返答に困ってしまった。なんとなく気になって、見つけただけだったから…
見つけた後のことまで、考えてなかった…

どうしよう…
家に連れて帰ったら、怒られるかな?
…本当に、どうしよう…
困った。

「おうちじゃ、飼えないの?…マンション?」
「ううん、違う。違うんだけど…、僕…」

ペットを飼ったことって、ないんだ。僕もお母さんもお父さんも…
大丈夫かな?
僕でも、お世話できるかな…

「お父さんかお母さんに、怒られる…?」
「わかんない。猫、拾ったことないから。動物って飼ったことないんだ」
「そっか…じゃぁさ、お願いしてみなよ」
お願いすれば、許してもらえるかもしれない。
僕が、全部するって言えば、お母さんも、お父さんも、きっと許してくれる。
お世話はがんばれば、大丈夫だよね。僕でもできるよ。


「うん、言ってみるよ」
「がんばって。あ、飼うんだったらさ、動物病院に連れて行ってあげたほうがいいよ」
「うん。連れて行く」

「じゃあね」
「うん。ありがとう。じゃあね」

あっ…
手を振って、その子が歩き始めてから気づいた。
名前を聞いてなかった。その上、僕も名前を言ってない…

「あのさ…」
大きな声で話しかけてみたんだけど、聞こえなかったみたいだ。振り返ることなく、その子は歩いていった。
残念だけど、仕方がない…

僕も、家に帰らなきゃ…

って、おじいちゃんの道場…
戻らなきゃ…いけないのかな…

追い出されたんだから、家に帰ればいいのかな…

よく、わかんないや。
でも、この子にミルクをあげたりしたいから、家に帰ろう…

怒られたら、謝ればいいんだ。
ごめんなさいって。


アイスの箱の中では、小さな白猫が一生懸命に泣いていた。


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