ジュリエットな君とロミオな私 (君と私@)(完結)


[08]裏の第4幕


「えっ?なに?」
私の小さな声を拾い上げて、姫野君は聞き返してきた。
確かに、回数を数えただけの声は何を意味してるかわからないだろう…
でも、私にとっては重要なことなんだ。

だって、初めてと2回目のキス。
思い出に残るキスがこれじゃ…
これじゃ、私がかわいそうだ。かわいそう過ぎる…。


「初めて…と2回目…のキスだった…のに…。酷いよ…」
呟きながら泣けてきた。今度はきちんと涙を自覚できる。頬を流れる涙はひどく熱く感じた。



奪われたのはキスだけじゃない…私の淡い幻想みたいな夢も奪われたんだ。
ファーストキスは、初めて付き合った人と、学校帰りのお別れのときにって、決めてたのに…
決めてたのに…もう、かなわないじゃない…

涙が止まらない…止められない。溢れては、頬を伝って流れていく…
あの時、拒絶してればよかったんだ…2回目だって、拒絶すればよかったのに…
なんだか、後悔ばかりが浮かんでくる。


「ごめんね。でも、まこちゃんのファーストキスは誰にも渡したくなかったんだ。2回目は、いけそうだったから…つい…ね」
肩をすくめて、姫野君は小さく笑って見せた。力ない笑いだけど…憎たらしい。
そして、なんだか悔しい。
なんで、姫野君はこんなに余裕なんだろう…

「私のこと、好きでもないのに…なんで、こんなことしたのっ…ん…ん…っふ…ぅん」
いつの間にか顔が近づいてきて、3回目のキスを奪われる。
そうか、先に距離をとっておくべきだったんだ、なんて、気づいたところでもう遅い。
3回目のキスまで奪われたんだ。

3回目は、今までのキスとはどこか違うキスだった。
今まではどこにも触れていなかった彼の手が、腰と頭の後ろに回されていた。
細いと思った腕は、筋肉質でごつごつしていた。そして、私を強引に引き寄せる力強さを持っていた。
密着する体から伝わってくる体温と温かな唇に、体中の力を奪われたかのように、体から力が抜けていく…。
頭には消えかけていた靄が再びかかり始める…。もう、何も考えられなかった。

唇を軽く吸われ、半開きになった唇の隙間から、ぬるりと舌が進入してきた。
角度を変えながら、縦横無尽に口の中を這い回る舌。逃げようとしても、すぐに捕まえられ、軽く噛まれる。
もしくは舌を絡まされる…
唇は幾度となく離れ、そして、どちらからともなく重ねられる…

気がつけば、姫野君に自分の腕を巻きつけていた。
そうでもしなければ、床に崩れ落ちていただろうに違いなかった。

「…まこちゃん。…好きでもない女の子に、こんなキスしないよ?」
そっと唇が離れて、とんでもない言葉を紡ぐ。
でも、その意味が私にはわからなかった…

その意味を考える間は与えられることなく、再び、息もできないほどに深く口付けられる。
もう、拒まない。拒めない…。
知ってしまった唇の感触は、熱でもって意識を侵食していく。
ダメ…もう、何も、考えられない…

ただ、ぼうっとする。意識は白濁して、全ての言葉が意味を成さない。
認識できるのは、唇と舌の感触。そして、体の芯が熱によって溶かされるような錯覚。
その他はわからない。

唇からは、自分でも信じられないほどに甘い吐息が、こぼれていた。


「っん…んぁ……っふ……。ッダメ…やぁっ…」
どこから出てくるのかわからないほど、甘い声が自分の耳をくすぐる。まるで、自分じゃないみたいな女の子らしい、上ずった声…
音はわかるけど、意味がわからない。私は、何を言ったんだろう?

「…ダメって…なにが…ダメなの?教えて、まこちゃん」
耳に唇を近づけて、囁かれた声は低く掠れて熱かった。
私の体は、彼の声に小刻みに震えて反応を示す。自分の意識とは関係のない場所に、体が置かれているかのような感覚が、私を支配する。

「ねえ、まこちゃん。教えてくれないの?…それとも言えないの?」
何も答えられない私の耳を噛むように言うと、姫野君は、私の首筋を柔らかなタッチでそっと、下から上へと撫で上げた。
「きゃっ…、っん…」
途端にピクリと反応する体。
ゾクゾクしたなにかが、背筋を駆け上がって、全身の力を奪ってゆく。

かくん、と、どこかあっけなく全身から力が抜けた。
もう、自分の足では立っていられなくて、全身を姫野君にあずける形になった。

「ぅわっ…」
姫野君は慌てた様子で、私の腰を支えていた片方の手に力を入れてくれた。おかげで膝から床に崩れ落ちることは免れた。
けれども…、ガクガクと震える膝で自分の体重を支えることができない私は、彼の手を滑り落ち、床に座り込んでしまった。

「そういうことだったんだ…。気持ちよすぎた?」
いたずらな光を宿した瞳が、私の顔の高さまで降りてくる。
座り込んでしまった私の目の高さに合わせて、かがんでくれたんだ…と思ったら、肩を押された。
力の入らない体では、押される力に抗うことはできなかった。そのまま、後ろに倒れる。
姫野君も勢いのまま、上にのしかかってくる。
背中に手を回してくれたから、痛くはなかったけど、この体勢のまずさはさすがに理解できた…

これって、あのシーンと同じだ…


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