本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@
[06]chapter:2 Justitia
「すみませんね、汚いところで」
ラルは椅子に座らず立ったままだった。
家の中をじっくり見渡している。
ヴァンは緊張して口を開けずにいた。それもそうだ。自分が国軍に勧誘されるなんて。
アリに郵便配達員を頼むようなものではないか。
「何か飲まれますか?」とシリウス。
だがラルは黙ったままシリウスのデスクの方へ向かった。
「これは...宝飾ですか?」
「あ、はい私宝飾師をしていまして」
シリウスは宝飾師をしていた。簡単にいえば宝石を作る職人である。
シリウスのデスクの上にはなんの変哲もない色んな石が並べられている。
この石を砕き磨くことによって宝石が造られる。
加工をしてネックレスなどにすることもある。
この家は宝飾によって家計をたてていた。
ラルは赤い色の宝石を手に取って見ていた。やはり女性なので宝石に興味があるのだろうか。
ヴァンは何故かそれはないような気がした。
ラルは宝石をデスクに置きテーブルに戻ってきた。
「あらためまして、ラル=A=ターナーといいます」
ラルはそう言いながらゴーグルを外した。
綺麗な顔立ちからいくらか予想はしていたがその予想以上にラルは美人だった。
黒髪にここら辺では珍しい黒い瞳がまた独特の雰囲気を出していた。
ラルは続けた。
「急な訪問をすみません。先ほども申しましたがヴァン=シルウァヌスを『ユスティティア』に勧誘に参りました」
「何故…うちのヴァンを?」
シリウスはそう言いながら水をラルの前に差し出した。ラルは一礼で受け答えた。
「ユスティティアの調査員が上級隊士から命を受け、以前こちらに調査を向かわせました」
「調査員?そのような人達は見受けられませんでしたが...ヴァン、お前はどうだ?」
「ぼ...僕は...分かんない...」
ヴァンはホントに思い当たったことは一つもなかった。
「すみません。極秘の調査指令だったそうなので」
「それでうちのヴァンが国軍に入るに値する人物だと...」
「そうです」
シリウスは目をつむって黙りこくった。
シリウスは取り乱しているようではなく、むしろ落ち着いているようにも見えた。
「理解しかねます...別にうちの弟を過小評価してるわけではありません。ただ私は軍の基準というものを知りません。できればヴァンが貴方様達のお眼鏡にかかった理由をしめして頂けませんか?」
シリウスの言うとおりだった。
シリウスは自分を過小評価しないとは言ったが、自分はとても軍に入るような器はない。
ヴァンはそう思った。
ヴァンは運動神経も無ければ頭もいい方ではなかった。運動神経だけ見ればビルの方がずっと上だ。
お世辞もつけようがない。
ラルは少し黙り、口を開いた。
「分かりました。シリウスさんの言うとおりですね」
ラルはそう言って立ち上がった。
「二人とも外にきていだけますか?」
ラルのあとにヴァンとシリウスは続いた。
ヴァンはシリウスの背に隠れてラルの方を見た。
「それで...」と、シリウスは聞いた。
するとラルは黒いフードの下から長剣を取り出した。
綺麗な黒色をした両刃の剣だ。
黒色のせいもあるだろうがその剣は重く見えた。
だが、ラルは軽々と片手で持っていた。ラルは剣をシリウス達の方へ向けて口を開いた。
「シリウスさん。これを持っていただけますか?」
「はい?」
ラルはそう言うと剣を地面に刺し、立たせた。
「どうぞ。持ってみれば分かります」
シリウスは訳も分からず剣に歩み寄った。
ヴァンから見てもなんの変哲もない剣だ。それはシリウスから見ても同じことだろう。
シリウスはゆっくりその剣を柄を持った。
「ん、…ん?く…!なんだ…!?」
剣はピクリとも動かない。
シリウスは力を抜いているのだろうか。シリウスは確かに力持ちとは言えないがこの剣ぐらい訳はないはずだ、とヴァンは思ったがシリウスの顔は真剣そのもの。
シリウスの腕は力が入りすぎて小刻みに震えている。
「くくぐぐぐ…ぅぅう…ぅうぁ!!!…ハァ…ハァ…ハァ…これは…?」
ヴァンはわけが分からなかった。
何故シリウスはこんなに狼狽しきっているのだろうか。
「重い……!」と、シリウスは言った。
重い…?ヴァンはますますわけが分からない。
「じゃあ次はヴァン君、持ってみてくれるかい?」
ヴァンはラルに言われた通り恐る恐る剣に近づいた。
この剣はそんなに重いのだろうか?
見た感じ確かに重そうには見えるが持てない感じはしなかった。
だが剣はピクリとも動いていない。シリウスはこの剣を倒すことすらままならなかったのだ。
剣は先ほどラルが地面に刺した時のままの状態を保っている。
もしホントにシリウスが持てないほどだと言うのならこの僕に持てるはずがない。
ヴァンはそう考えながら剣を握り上にあげてみた。
ヒョイ
なんだ?
ヴァンが持つとその剣は信じられないほど軽く感じた。
凄い軽さだ。まるで重みを感じない。
ヴァンは剣をヒョイヒョイ振ってみせた。
シリウスは隣で目をまんまるくさせている。
「な、何故だ…?あんなに重い剣が…!」
やはりシリウスにはこの剣が重く感じていたらしい。
だがヴァンにはなんの重みも感じられなかった。まるで小枝を振り回している気分だ。
「これがヴァン君がユスティティアに相応しい理由です」
シリウスもヴァンもまだラルの言っていることが理解できなかった。この剣が持てるか持てないかが判断の基準だというのか。
「この諸刃(もろは)の名は『エクスキューショナー・ソード』。またの名を『エンスィス・エクセクエンス』」
「エクスキューショナー・ソード?」
シリウスは聞き返した。
「『断罪の剣』という意味です。『死刑を執り行う剣』と云われることもありますが、問題は名前ではなくこの諸刃を形成する物質です」
「物質?」
「『この世に存在しえぬもの』、名を『タブー』」
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