☆幕末人と暮らす方法☆【完結】
[02]【第2話】文明開化の音をさせてやろう
私も彼も、ようやく事実を受け入れた。
彼は呆然とし、
「…未来の日本…」
と繰り返し呟いている。
当たり前だが、彼にしてみれば、見るもの聞くもの全てが初めて。
私の部屋の色々な物を見渡しては珍しげに手に取っている。
おそらくこんな調子だから、今はコーラやパスタなどを出しては彼を混乱させてしまうだけだろう。
とりあえずお茶とたくあんでも差し出してみようか。
「どうぞ。
たくあんお好きなんですよね。」
テーブルにそれらを置くと、彼はたくあんを恐る恐る一切れつまみ、クンクンと匂いを嗅いだ。
そしてたくあんである事を用心深く確認し、口に放り込んだ。
「あるのか、未来にもたくあんが。」
そこには、今日初めての笑顔があった。
というよりも、この人はクールなキャラで通っている為、あまり人に笑顔を見せなかったと聞いた事がある。
だからこれは今日に限らず珍しい事に違いない。
彼はたくあんを貪り食った。
ヘタすりゃお代わりを要求しそうな勢いだ。
小皿のたくあんを全て食べ尽くした彼は、多少落ち着いたのか、立ち上がって上着を脱いだ。
「コレを衣紋掛けに。」
手渡された上着はウール製の為、ずっしりと重い。
あぁ、これが私の恋い焦がれた歳三様のお召し物…!
そしてこれを脱いだ彼は、マオカラーシャツに締めた首のスカーフを二本指でクイクイッと緩めた。
っっっかあぁ〜〜!!この仕草、たまんない!!
私、これからこんな素敵な人と暮らせるんだ!!
あの妄想の中でのめくるめくアバンチュールの数々が、今現実のものになるんだ!!
「君には世話をかける事になるな。
かたじけない。」
彼のまっすぐな瞳に見つめられ、私は腰砕けになりそうだった。
島原や祇園の女達も、きっとこの吸い込まれそうな瞳に夢中になったのだろう。
でも、その土方歳三も今や私の手中に収まった。
さぁ、これからは彼との蜜のように甘ぁ〜い生活をエンジョイするわよ!
お〜ほほほほ…
「ところで君の名は?」
土方さんは新しもの好きのオシャレさんだったという。
剣道の防具は長めの赤い紐だったとか、外国製の服のダボダボ感をスカーフでカバーしていたとか、懐中時計の鎖を五連にしていたとか…
だから言葉使いも「おぬし」ではなく「君」と、比較的現代に近いもののようだ。
「…牡丹。
白井牡丹です。」
心の中で、
【白牡丹 月夜月夜に 染めて欲し】
の句を叫んだ。
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