☆幕末人と暮らす方法☆【完結】


[01]【第1話】クリスマスプレゼント





昨晩は確かに飲んだ。


独身女三人で




「クリスマスイブがなんぼのもんじゃ〜い!!」




と大酒喰らった。


でも一人でアパートに帰り着いた記憶だけはしっかりある。



それなのに、今私に背を向けベッドに横たわるのは



知らない男の人



…って誰だよコイツ!?


いつからここにいた!?


私は男というものはとんと御無沙汰だが、知らない男を連れ込む程不自由はしていない。


それなのに、現にここには男が眠りこけている。



どうしよう。


最近の若い男は分からんからな。ヘタに揺り起こして逆ギレやらされかねないし、とりあえず警察に電話しなくちゃ。



私は枕元に置いたケータイを手に取った。



『チリンッ』



ケータイストラップの飾りの鈴が音を立てた。



その時だった。




「むっ、何奴!?」




それまでグーグーと眠っていたはずの男は布団から跳ね起き、次の瞬間にはもう畳の上に立っていた。


手は、左腰に差した刀の柄を握っている。




「ひっ…!」




私はあまりの驚きに、声も出ない。



しかし、朝日に照らされ今にも刀を抜かんとしているその男の顔に、私は見覚えがあった。




「…ひ…土方…歳三?」




そう、あの【鬼の副長】と呼ばれた新撰組のブレイン、土方歳三である。


…いやいやいやいや、ナイナイナイナイ。

さすがにそれは有り得ない。


なんで歴史上の人物がうちのベッドに寝てんだよ。

だいたいとっくの昔に五稜郭で死んでるっての。


あぁ、そうか。

私は「結婚するなら土方歳三みたいなクールでデキる男がいい」と豪語する程の、大の新撰組ファンだ。

友達はそれを[三十路の歴ヲタ]と呼ぶ。

だからアレだ、好き過ぎて幻覚が見えるようになっちゃったんだ、きっと。

それしか考えられない。
あぁあ、重症だ。末期だ末期。


よし寝よう。
きっと疲れてるんだ。
このところ残業続きだったしね。



私はケータイをまた枕元に置き直し、再度布団に潜り込んだ。




「…オイ…オイ、お前。

何もう一回寝てんだ。

起きろ、オイ起きろってば。」



布団越しに揺さぶられる感覚があり、私は顔だけを覗かせて、その声の主を見た。



やっぱりいた。幻覚ではない。


あ、もしかしたらなりきりそっくりさんなのか!?




「お前、どうして俺のホトガラを持っている?」




男の手はもう刀ではなく、机に飾ってあった写真立てを持っていた。




「土方歳三は私の理想の男性だからよ。
好きなの。愛してるの!
ちょっと私のもの勝手に触んないでくれる?」




体を起こし、写真立てをブン取り返すと、男は突然真顔でおかしな事を言い放った。




「だから俺がその土方歳三

新撰組副長 土方歳三だ。」




…は?

あぁ、まぁね。うん。
似てる、似てる。

歳三をこよなく愛す私も認めるくらい、アンタは土方歳三にそっくりだよ。

洋装のコスプレもよくお似合いさ。



でもそんな抜けしゃあしゃあと「土方だ」なんて言われたら、「前世は歳三の女」と自称する私としては許す訳にはいかない。


私は布団から這い出し、ヤツの前に立ちはだかった。




「ちょっとアンタ、ふざけるのもいい加減にしなさいよ。

だいたい土方歳三がこんなところにどうやって来るのよ!?」




すると男はまた真剣な表情で私の目をじっと見つめ、言った。




「俺にも分からん。

五稜郭内の俺の部屋で榎本武揚と酒を飲んだ後、そのままうたた寝したんだ。

そして目が覚めたら知らない部屋にいた。

誠にすまない…。」




どうも嘘を言っている様子ではない。


しかしにわかにそんな話しを信じられるわけもなく、私は途方に暮れた。




「お、そうだ!お前さっき俺を好きだと言っていたな。

ならば俺の[相棒]の事も知らないはずはないだろう。

ほら、これが証拠だ!」




スラリと抜いて見せた刀には、刀鍛冶の銘が彫ってあった。




「あっ!コレは…

和泉守兼定!!」




男はニヤリと笑い、鞘に刀を収めた。




「俺が新撰組副長 土方歳三だ。」




一人で迎えるはずのクリスマスの朝、サンタクロースは私に土方歳三をプレゼントしてくれたのだった。



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