暴走堕天使エンジェルキャリアー
[49]リベリオン
短機関銃を背中に突きつけられ歩かされる小笠原、彩夏、長門。そして彼女たちに短機関銃を突きつける春日以下二名。
静寂が耳を刺す廊下に足音が響く。
「ちょっと士長、どこ連れてくのよ?」
彩夏が悪態をつく。だが春日は応えない。
「ふん。あんたもあたしたちを売ったってわけ?目的はなによ、お金?地位?そんなに出世したいわけ?」
「黙って歩け!」
男の一人が短機関銃を振り上げる。その様子を見た長門が二人の間に割って入る。
「女性に手を挙げるのはいただけませんね。」
長門は男の目を睨みつける。男はふんっ、と鼻を鳴らすと、渋々短機関銃を下ろす。
長い廊下の突き当たり、エレベーターの前に着くと、突然轟音が響き床が大きく揺れる。男が脚を崩した隙に、彩夏の後ろ蹴りが男を薙ぎ倒す。
「貴様っ!」
もう一人の男が短機関銃を振り挙げる。が、男は短い悲鳴をあげ、床に転げ落ちた。
男を後ろから殴り倒したのは春日だった。
「士長…」
「はじめ、手錠外すから後ろ向いて。」
「…あ、ああ。」
春日は長門の手錠を外すと、床に倒れている男たちのポケットを探る。
「はじめ。」
そう言って春日は手錠の鍵を長門に投げ渡す。そして自身はまた男の身体を探る。
春日は男の胸から拳銃を取り出し、小笠原に手渡す。
「どういうことだ?晴紀。」
長門は男が携えていた短機関銃を手に持つ。そしてもう一丁を彩夏に渡す。
「しょうがないだろ?あそこで言うこと聞いとかなきゃ俺まで独房行きだったんだから。」
「いや、そういうことじゃなくて。」
春日は男たちの身体から弾倉を剥ぎ取っている。一通り装備を奪うと、立ち上がり小笠原に向き直る。
「元特務隊のメンバーが結託してクーデターを起こします。小笠原三佐、指揮をお願いします。」
春日はそう言って小笠原に無線機を手渡す。
「―解った。先ずは司令室とキャリアーを奪還する。」
「了解っ!」
彩夏、長門、春日は敬礼する。
特務隊本部の各所で、小規模な銃撃戦が行われている。その各々の無線機に、小笠原から通信が入る。
「小笠原だ。各人、居場所と状況を報告しろ。」
聞き慣れた小笠原の声に、各人は薄らと笑みを浮かべる。そして小笠原に各人から返信が入る。
「解った。第3階層以下は放棄、桐嶋士長と春日部一士は司令棟への直通ラインを確保。朝霧准尉と夕潮准尉、高良二士はキャリアー格納庫を奪取しろ。そちらには水無月二尉と長門准尉を向かわせる。二人が到着するまでもたせろ。」
「了解!」
「さて…我々もここを切り抜かなければな。」
廊下の壁に身を隠す小笠原以下三名。そこに容赦なく銃弾が撃ち込まれる。
しかし弾幕の途切れた一瞬の隙に、四人は短機関銃を構え突撃する。男達は隙を突かれ、銃弾に沈黙する。
そして四人は階段に辿り着く。予想通り、上から銃弾が降り注ぐ。
長門と春日がそれに応戦する。
「行きましょう、三佐。」
「ああ。」
四人は一気に階段を登る。が、その途中に、壁に身を隠しライフルを構えた男がいた。
男の存在に気付いたのは春日だけだった。銃口は彩夏に向けられている。
「二尉!」
叫ぶが早いか、春日は彩夏を庇う為に飛び出していた。春日の声に振り向いた長門はいち早く状況を飲み込み、ライフルを構えた男に銃を放つ。
「大丈夫ですか!?二尉。」
「あたしは大丈夫。士長は?っ!?」
春日の腹に血が滲んでいた。だが春日はにっこりと笑う。
「大丈夫っすよ、これくらい。さ、早く行きましょう。」
階段の下から銃弾が届く。四人は再び階段を駆け上がる。
「ここを抜ければ司令棟だが…さすがに守りが堅いな。」
小笠原は拳銃の弾倉を交換しながらつぶやく。振り向くと、春日が息を荒くしながら腹を押さえ座り込んでいる。
「士長、傷が…」
「大丈夫ですってば…ほら、早く行かないと…」
「大丈夫じゃないじゃない!なに言ってんのよ!」
「大丈夫ですって…」
春日はそう言うと、壁を背にゆっくりと立ち上がる。壁には血の痕がべっとりと付いている。
「俺が突貫します。そのあいだに…三佐たちは司令棟へ…」
弾幕が止む。そこに春日が突貫し短機関銃を掃射する。
「すまない、士長…准尉、走れ!」
小笠原たちが扉を潜ったのを確認すると、春日は壁に身を隠す。するとそこには彩夏の姿があった。
「何してるんですか、二尉!」
「バカ!あんた一人置いて行けないわよ!」
春日は息を切らしながら弾倉を交換する。
「これが最後の弾倉です。だから…二尉は行ってください…」
「そんなことできるわけないじゃない!」
「いいから行け!」
長門の怒声に彩夏は身を震わせる。
「二尉がいなきゃ、誰がラファエルを動かすんですか!?…もう一回突貫します。その隙に…」
彩夏の瞳に涙が滲む。そしてゆっくりと春日の頭を胸に抱き寄せ、ゆっくりと唇にキスをする。
「―絶対生きて帰ってきなさい。わかったわね?」
「…了解しました。」
春日が飛び出し、短機関銃を放つ。そして彩夏は涙を拭いながら、春日を背に走り出す。
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