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負けない!!負け犬【３】～私とＪｒ.と銀時と～《連載中》

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[32]４月３日(土方)

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突然、ワケの分からんメールが来た。

「江戸Ｌ＝Ｌ｜＜ｶゝらょξ∪＜Ｎｅ(^∀^)v」

は！？
江戸…Ｌ…＝…

分かるかァァァ～！！

これが俗に言う[ギャル文字]か。

一応トライしてみたが、俺には解読不能と早々に匙を投げ、若い女子隊士に教えを乞うた。

すると驚いた事に、彼女らはこの暗号のような文章を難なくスラスラと読み上げた。

「あぁ、これはですね…

『江戸に行くからよろしくね』

って書いてあるんですよ。」

ハァァァ！？
コレのどこをどうやったらそういう読み方になるんだ！？

全く最近のガキゃあロクなモン考えつかねぇな。

しかし俺を慕って江戸へ来る、ギャル文字を使うようなヤツって誰だ？

俺にそんな知り合いいたっけか…

自分の頭にインプットされているだけの人物データを全て紐解いてみるが、やはりそんなヤツはいない。

なんかの迷惑メールだろうか…

「副長、お客様がお見えです。

今、応接間でお待ちいただいております。」

俺が考えあぐねている所へ、部下が伝令に来た。

まさかメールの主？
もう来たのか。

俺は騒ぐ心を抑えつつ、応接間の襖を開いた。

するとそこにいたのは

「…な…

ば…

ばあちゃん！？」

武州に住む俺のばあちゃんだった。

「何ビックリこいてんの？

さっきちゃんとメールしたしィ。

つーかトシ、まさかのまだ読んでない的なァ？」

…あの…え…

ばあちゃん？

何その話し方。

しかも頭金髪で肩出したセーターにジーンズって、一体アンタ自分がいくつだと思ってんだよ！？

つーかババァ、ソレどこで仕入れたァァァ！？

自分の祖母の痛烈な惨状に、俺は唖然としてしまった。

「トシ、渋谷に行･こ･う･ＹＯ！」

ババァはフレミングの法則の手で俺にサインを出した。

・―・―・―・―・―・

「トシ、マルハチ行こう、マルハチ！」

お望み通り渋谷に連れて来てやると、ババァは俺の腕を取り、足取りも軽く１０８ファッションビルへと向かった。

中は当然の事ながら中高生やらの若い女の子達ばかりで、俺とババァは明らかに場違いな空気を放っている。

そんな事などお構いなしに、ババァはズンズンと目当ての店舗に向かった。

「あ、あったあった。トシィ、見て見て！

私の超お気にのブランド、[個々流々]ロックオ～ン！！」

ババァテンションマックス。

早速カリスマ店員とかいうのと嬉しげに話し出し、商品を物色し始めた。

初対面なのにすげー親しげだな、オイ。

俺はなんとなく入る勇気も必要性も感じられず、その店舗の前でタバコを吸って待っていた。

そして待つ事３０分。

ババァが店内から手招きした。

何だろうと近寄ってみると、

「トシの服、買っちゃった。

すぐ着てみてよ！」

と紙袋を手渡された。

ふぅん。[個々流々]ってのは婦人服だけでなく紳士服も置いてるのか。

初めての場所、初めての知識に感心していると、ババァに早く早くと急かされ、試着室に追いやられた。

なんだよ、全く…

まぁ幼い頃から俺を可愛がってくれたババァの頼みだからと、渋々ながら紙袋の中身を確認すると、派手な色使いのパーカーと、ダブダブのジーンズが入っていた。

えーーっ！嫌だ、俺は断じて着ないぞ！！

ババァにクレームのひとつもつけてやろうと試着室のカーテンを開けると、同時に隣の試着室からババァが出て来た。

「私も買っちゃった！」

あろう事か、ババァは俺とお揃いのパーカーとジーンズを着てやがった！！

そんなもん、ますます着れるかァァァ～！！！

「ばあちゃん、ペアルックはナイわ、ペアルックは。

それだけは勘弁してく…」

「……」

ババァは床にしゃがみ込み、震える声で言った。

「…トシは変わったね。

都会で暮らす前はもっと私に優しかったよね。

何、もしかして私より好きな女でも出来たの？

そうなの？ねぇどうなのよッッッ！？」

あぁあぁ、もうなんだよその猿芝居は！？

何で俺がアンタと付き合ってたみたいな話しになってんだよ！！

久々に会ってみりゃ若い娘みたいな格好してギャル文字やらギャル言葉やら使って、もぅ俺頭ん中パニックだよ。

挙げ句｢ペアルック着ろ｣なんて正気の沙汰じゃねぇな、このババァ。

しかしババァの必死のパフォーマンスに情けなくも少し心動かされ、俺は仕方無く再度試着室に戻った。

・―・―・―・―・―・

「あっ、プリクラ！

私あれ撮りたいかも！！」

またババァにせがまれるままに付いて行くと、そこはゲーセンだった。

様々なゲーム機器と共に、派手な装飾のプリクラ機がズラリと設置されている。

しかしどのプリクラ機もガキが列を作り、すぐには順番が回って来そうにない。

「ばあちゃん、諦めようぜ。

こりゃすぐには撮れねぇよ。」

俺が列を離れようとすると、ババァはまた床にしゃがみ込み、

「…トシは変わったね。

都会で暮らす前はもっと私に優しかった…」

あぁもう、また始まった！

「分かった分かった、並ぶから。

全く…」

ババァはニヤリと笑い、何事も無かったかのようにスックと立ち上がった。

何なんだこのクソババァはァァァ！！

そして待つこと２０分。

ようやく俺達の番が回ってきた。

ビニールのカーテンを開くと、中は畳二畳くらいの狭い部屋になっており、前方にはペンタッチ画面とカメラが付いている。

早速コイン投入口に小銭を入れてやると、画面が甲高い声で画面の説明をし始めた。

しかしババァはそれをすっとばし、慣れた手付きでペンを動かした。

プリクラ機の操作など、一体どこで覚えてきたんだろうか。

「何ボサッと突っ立ってんのよ。

ホラ、撮影が始まるわよ！」

すると『ハイ、チーズ！』という機械の掛け声と同時に、フラッシュが光った。

「あぁ、もう！

ちゃんとポーズ取ってよね。

ホラ次！ハイチーズ！！」

ババァと機械の両方から急かされ慌てふためく俺に、ババァはいきなり抱きついてきた。

「トシ、次はチューの写真撮ろ！」

「ハアァァ！？

あんたバカか！なんで婆さんと孫がキスしてる写真なんか…」

「いいじゃん、いいじゃん～」

「嫌だ！離れろクソババァ！！」

そうして俺が抗っているうちに、最後のシャッター音が鳴った。

ババァはふてくされながら、プリクラの受け渡し口に行ってしまった。

全くどうなってんだ。

あの素朴を絵に描いたような田舎の婆さんが、いきなりこの変わりよう。

正直俺は戸惑っていた。

昔のままのばあちゃんの残像は微塵もない。

今そこでプリクラが落ちて来るのを待っているのは、俺の知らない節操のないババァ。

ばあちゃん、アンタ一体何があったんだよ…

♪～♪♪～

ジーンズのケツポケットから、ケータイの音が鳴った。

かけて来たのは親戚のおばさんだった。

珍しいな、何だろう。

とりあえずここではゲーム機の騒音でとても話しが出来る状況ではないので、一旦店を出た。

通話ボタンを押すと、久しぶりに聞くおばさんの声がした。

しかし何故だか声の様子がおかしい。

「トシちゃん、大変なの。

おばあちゃんが病院を抜け出していなくなっちゃったのよ！

ガンが見つかって、手術はもう出来ないくらいに転移してるから、もう永くはないらしいわ。

おばあちゃん、ベッドの上で毎日のようにトシちゃんトシちゃんって言ってたから、もしかしてそっちに行ったんじゃないかと…」

何だと？

ばあちゃんがガン、それも末期！？

嘘だろう。

じゃあもう生い先短いと知って、病体を押して俺に会いに来たというのか！？

おばさんがわざわざ嘘を言うはずもなく、俺はその話を受け入れる事にした。

「分かった。
見付けたらまた連絡するよ。じゃあ。」

それだけ言うと、俺は急いでケータイを閉じ、ハサミでプリクラを切り分けているばあちゃんのそばへ駆け寄った。

「プリクラ、もう一回撮ろう。

今度はチューもしよう。」

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