第二章 動きだす運命
[13]第二八話
昼休み。
空は青く澄み渡り、典型的な秋晴れだった。
風が涼しいのは、本格的な秋の終わりを予告しているのか、少し枯れた葉が宙を舞い、踊っている。
そんな中、一際熱そうな場所があった。
そこではサツマイモを掻き集めた枯れ葉で焼いているのではない。単に空気が熱いのだ。
加治が熱弁を振るっている。
それが一通り終わると、如月は無表情なまま一言。
「つまり女性陣が中身を伴わない突発的な感情を俺に抱いているわけだな」
と購買のサンドイッチを行儀よく食べながら言った。
如月にとっては、他人の自分に対する感情などどうでもいいと思っているのだろう。
だがそれは如月だけの感覚であって、万人の男子の感覚ではない。
だから、彼らを代表するように加治は言った。
「いいか。どうでもいいと思うのは如月、お前だけだ。だが我ら男子諸君はどうだ? 一度はそんな人気者になりたいと思っているのだ! それをお前はどうしている! その立場を持て余し、しまいには我らが親友の剛田を傷つけかねない事態にまで進展させた! これを罪と言わずして何と心得るか!」
如月に指を向け、巧みな身振り手振りを交えた加治はまさに一端の演説家である。
その熱意は汗のように彼から滲み出ていた。
一方如月は、相変わらずの無表情でサンドイッチを食べている。
そして全て食べ終わると、
「持て余しているわけじゃない。大体そんな立場に祭り上げたのは女子だ。それに剛田はすでに傷心している」
「………………」
加治の熱意もクール過ぎる如月を揺り動かすには至らなかった。
しかし加治は思う。
なぜ如月耀はここまで恋愛事に否定的なのか。
いや、そうではない。無関心なだけなのだ。
無関心であるからにはそれ相応の理由があるのは当然だが、如月の性格を鑑みても思い当たらない。
ここで加治は、はたと気付く。
しかしそれをすぐに否定した。
あの常に沈着冷静で真面目な如月に限ってそんなはずはない、と。
自分は何を馬鹿な事を考えていたのかと思わずかぶりを振った。
それを見て、如月は怪訝な顔になる。
「加治、急に大人しくなったが、食あたりでもしたか?」
「ん? いやいや、そんな事はねぇぞ。ただ考えてただけだ」
加治は普段の不敵な笑みを浮かべた。
だが、それは如月の疑念を大きく膨らませるだけに止まった。
また無駄な想像をしているのは明らかである。
如月は興味のなさそうな、つまらないと言っているような目を加治に向ける。
「なんだよ? 何か文句あるのか」
「いや、特に何も文句はないが」
如月は立ち上がった。
「無駄に想像力を働かせても、体力と時間を浪費するだけだ」
「相変わらずの台詞に脱帽だよ。そして忠告ありがとう」
加治は盛大な皮肉を返した。
如月はそれを理解してか、一度肩を竦めるとさっさと校内へ入って行った。
そんな彼の行動に加治は苦笑すると、自身もまた教室へと足を向けた。
五限目。
数学だった。
如月たちがいる教室には、本来いるはずの剛田の姿がなかった。
ある者はサボりだと思い、またある者は保健室だと思った。
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