〜第5章〜


[47]2007年 7月20日 夜中4時12分


本当にこのままでいいのか?
私がこの瞬間までずっと力を注いだタイムトラベラーという使命を、みすみす潰すことが許されることになる、それで本当にいいのか?

だめ。いいはずが無い。
悠から逃げているのは私だ。

悠が必死で、私に許してもらえるよう努力している。それを許さない理由は、悠とアイツが似てるから。
そんな理由……そんな利己的な理由が通用してはいけない。

私が悪いんだ。悠は悪くない。

だから……。



私は、施錠していたドアの鍵を開ける。ドアノブをゆっくり回し、恐る恐る扉を奥に押す。
目の前には、頭を下げている悠がいた。

「ごめん、本当にごめ、いだっ!!」

頭を下げているせいでドアが開いたことに気づかなかった悠は、ドアと頭をぶつける。

悠は一瞬しどろもどろになって、どたばた動くが、すぐに私と目を合わせた。

「ステラから信号があってさ……」
「知ってる」
「あぁ、そっか、そうかそうか、そ、それで……なんだけど。許してくれるのなら一緒に行こうと思ってさ、いや、別に無理強いをしているわけじゃないんだ。清奈が嫌なら、どうしても嫌なら……バラバラで……行くし……」
こういう、伝えたいことをハッキリ言わない奴は嫌い。
でも、それも、悠にだけは許してやれる。こいつは、ちゃんと私に伝えようとして、止む無くこんな口調になってしまっているだけなのだから。

「……で、結局あなたは、私と行きたいの? 嫌なの?」
「行きたい。清奈がゆるしてくれるなら……行きたい」

ほらね。悠はこう即答してくれた。

「……いいわ」
「え?」

悠がかなり驚いた様子でこっちを向いた。今まで頑に頑に拒んできた私が、あっさり許してしまったのだから。

「一緒に行っても」
「ありがとう……マジでありがとう……!」

悠は、心底喜んでいた。
それはもう、私が及びもつかないぐらい馬鹿な笑顔を浮かべて。

「何か誤解してない? 私はあの事は許してないわよ」
「え」

悠が固まる。

「あのことは許してないし、一生許すつもりはない。でも……お前が心の底から反省しているみたいだから、特別に目を瞑っといてあげる」
「それでもいい……良かった……」







っ?

「お前、泣いてるの?」
「だ……だってさ。清奈がずっと僕のことを無視し続けたらって……思ったからよ」
「全く情けないわね。そんなことで男は泣くもんじゃないわよ」

そんな涙見せられたら、まるで私が悪者扱いされてるみたいじゃない。
確かに、自己中心的な理由で悠に凄く強く当たったことは確かだけど。

「早く準備なさい。この時間帯にハレンからの連絡があったのは……」
「変な話だよな、よし」

悠は左手に握っていたパルスを右手に持ち変えた。


――――――――――――

「一国一城の主……という言の葉をよく聞くが、これほど言い得た例は無いだろう」

ルネスは、自分が履いている青銅のブーツを床にコツコツ打ち付ける。

ルネスは、巨大な鏡に写る、氷に固められた異様な建造物を、死んだように力無く見つめていた。

「刺客とやら……これほど露骨な真似をするとは、よほどの無能か……」
「もしくは、脱帽並みの自信と憎悪に満ちた者だろう」
「……グルーム。まだ節介を焼きたいのか」
「ふふ。貴様が嫌がるあの女が如何なものか一見してみたくてね」
「すぐさま消えろ。無視するなら容赦しない」
「残念だが……その女とやらが来たようだ」

側に植えられている、針葉樹の頂点に、カラスが一匹止まった。
しわがれた鳴き声を2人に飛ばす。
鳴き声を連呼し、翼をバサバサ揺らす。
カラスの首の辺りに、時節を外した貴族の奢侈品のような、派手で無駄に大きいダイヤモンドがあった。カラスが首からダイヤモンドのネックレスをつけている。

ダイヤモンドは本当に巨大で、値段はつけられないように高く、ギラギラした光沢が嫌に目につく。

「ジェスタレーラ。貴様が俺を呼んだ理由を聞かせて貰おうか。よもや、私情を挟んだのではあるまいな?」
「はあ? あたしが私情以外で呼ぶわけないじゃん。きゃははははっ」

針葉樹の頂点に止まっていたカラスが、いつのまにかルネスと同じ年ぐらいの少女になっていた。

服装にしても、その惑わせるような目を見ても、清純と言うにはかけ離れた容姿をしていた。

ツインテールで金髪、スカートがギリギリの長さで下にスパッツを穿き、かなりの厚化粧をした少女。

「ワオ! そのライオンのおっちゃんはルネスの友達? 駄目だよ〜ルネス。友達は選ばないと〜」

垂直に飛んで前宙し、ルネスとグルームの間に着地する。

「チョリーッス☆」

それがグルームに対する最初のセリフだった。

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