†壱章/尚早†


[08]衝


僕が保健室の扉を開けて、中を確認したが誰も居ない。

仕方ないので、勝手にベットを拝借する事にした。

訳だが…彼女の急な失神と西山君の登校拒否って関係ないのだろうか?

考え過ぎかも知れないが、彼女は射場さんが入ってきた時、驚いていた気がする。

寺田は彼女を優しく寝かすとすぐに立ち去ろうとした。

いつもならサボろうぜ、と誘ってくるタイプなのに。

何だろう。

まるで、見たくないかの様な…。

「もう帰るのか?」

俺はそっと訊いてみた。

「軒澤に借りたマンガの続き気になるんだよ。」

あれ?

軒澤と寺田ってそんなに仲良かったか?

僕が質問しようとした時、服の裾を引っ張られた。

下を見ると、さっきとは打って変わって、頬をほんのり染めた中山さんが居た。

寺田が出て行く音がした。

「行かないで、大今君。」

なんだこの、ギャルゲとかで有りがち過ぎる展開。

若干涙目な所とか、モロそうだろう。

「悪いけど、授業もあるし。」

実際、授業はどうでも良いが、こーゆー展開は苦手だ。

なんて言うか、背筋がぞわっとする。

言っておくが、僕はれっきとした健全なる高校生男子だぞ。

「じゃあ、あたしも行く。」

「駄目だって。さっき倒れたんだから安静にしてないと。」

僕が注意すると、中山さんは俯いた。

そして、ぽつりと呟いた。

「一人が怖いの。」

「え?」

「お願い、大今君!!あたしを助けて!!」

はぁ!?

何を言い出すかと思ったら、僕は正義のヒーローなんかじゃないぞ?

しかし、僕は次の一言に心を奪われた。

決して恋愛感情ではないが。

「あたしも、西山君に呪われてるの。」

も、だと?!

「つまり、他にも居るって事?」

中山さんは頷いた。

「多分、脇山君も。」

カタカタと震えている。

もしかして、さっき何か見えていたのか?

案の定彼女は話し始めた。

「あたし、脇山君の首に手をかけてる西山君が見えたの。暫く目が逸らせなくて、そしたら瞬間移動したみたいに、今度はあたしの後ろに来て言ったの。『僕と付き合って。』って。それから、あたしに触ろうとしたから咄嗟に叫んじゃって…。」

だからあんなに蒼白してたのか。

止めたのはたまたまだったのだ。

で、彼女は僕にどう助けて欲しいんだ?

中山さんは僕の手を握った。

「今日だけで良いの。あたしと付き合って?」

小首を傾げ、上目使いで僕を見つめる。

さらりと黒い長髪が肩から零れた。

本当にこの人、何を狙ってるんだ?

でも、僕も興味がない訳ではない。

正直、今回の事件に衝撃が走ったのも事実だった。

僕は二つ返事で承諾した。

彼女は優しく僕を抱き締めた。

「ありがとう。」

僕は動転して気付かなかったのだ。

彼女が僕を抱き締めたまま、不適に笑っている事に。

−−−−−教室に寺田が戻ると、射場さんの周りには男も女もうじゃうじゃ集まっており、近付けなかったらしい。

脇山達が縮こまっていたのは僕も一目拝みたかった。

とにかく、寺田はそれを避ける様にして自分の席に着いた。

それを見た射場さんが声を掛ける。

「あれ?寺田君。大今君は?」

「保健室で居るけど?」

一瞬、射場さんの顔は豹変したそうだ。

そして、寺田をトイレに誘った。

寺田は不服そうに着いて行ったが暫くして射場さんがダッシュしだしたので焦って着いて行った、と聞いた。

「どうしたよ!?トイレはあっち「馬鹿言え!!紘慈が心配じゃねぇのか!?」」

正直、意味不明だと思ったとか。

「どういう意味だよ?」

寺田が走りながら射場さんに訊く。

射場さんは険しい表情で寺田に言った。

「詳しくは言えねぇが、…紘慈が死ぬかもしれねぇ。」

そう言い切ると、射場さんは一段とスピードをあげて走る。

その只ならぬ様子に、寺田も意を決して着いて行った。


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