†壱章/尚早†


[07]辱


何時ぶりだろう。

こんなに走ったのは。

教室に入る寸前の先生を押し退けて僕と射場さんは教室に入った。

「くぉら、大今!!…と、誰だ?」

教室中が騒ぎの渦となる。

当たり前だ。

誰も彼が西山君とは思えないだろう。

射場さんは、いや、今日だけ西山は溜め息を吐き、担任を嘲笑した様な目つきをして言った。

「あれ、先生。分からないんですか?」

出たぞ、演技派め。

僕はすごすごと自分の席に着いた。

隣の寺田が話し掛けてくる。

「なぁ、仲良さげに入ってきたけど、アイツ誰だよ?つーか、ジャンル違い過ぎるだろ。」

「あー、チャリ置きでたまたま。仲言い訳じゃ…。」

射場、じゃなかった。

西山は金髪を弄ぶかの様に触った。

あー駄目だ。

あんな格好いい仕草、西山君に出来る訳ない。

先生はだいぶ悩んでいた。

やれやれ、とでも言うかの様に、西山モドキは首を鳴らした。

「なんで分かんねぇかなぁ。俺だよ俺。西山 結城。」

教室に静寂。

そして、ふふんと良い顔をする射場さん。

教室中の男子を敵に回すかもしれないぞ、この人。

それぐらい、女子受けしそうな顔をした。

「に、西山ぁ!?」

女子達の黄色い歓声。

男子達は全く信じようとしない。

「そう騒ぐなよ。ちょっと整形してちょっと脂肪吸引しただけだろ?」

ちょっとどころな訳ないだろ。

しかも、元陰キャがこんなにベラベラ喋れる訳がない。

寺田も胡散臭そうにしていた。

でも、仕方ない。

これも除霊の為なのだ。

真実を知っている僕は黙って見ていた。

其処にクラスの問題児、脇山が口を出す。

「そんな事しなくても良かったんだぜ、西山。寧ろ昔のお前の方があそこでかくて可愛かったのになぁっ!!ひゃひゃひゃ!!」

五月蠅いな。

僕は密かにアイツらを睨んだ。

一年の時から脇山+取り巻き達は本物の西山君の胸を揉みほぐしていた。

軽い嫌がらせだ。

体型が体型であったため、西山君の胸は、そこが小さい女子と変わらなかった。

僕らも注意したりしてみたものの、結果は変わらず、遂には諦めかけていた。

そして1ヶ月前、事件が起きた。

西山君が教室で犯されたのだ。

女子、男子の前に関わらず、脇山達は犯し続けた。

僕ら男子は必死で止めて、女子は先生達を呼んだ。

遂には警察にまでお世話になり、脇山達は二週間の謹慎を受け、西山君は登校拒否となった。

まぁ、男として最悪の屈辱を遭わせられたんだ。

登校拒否はやむなしと思ったんだが、

いきなり机を思い切り叩く様な音がして我に帰る。

みると脇山の机に射場さんが足を乗せていた。

「登校拒否して1ヶ月、俺が無駄な時間を過ごして来たと思ってんのか?」

いや、ちょっと!!

西山君がそんなキャラな訳ないだろ!?

知り合いの僕としては非常にいたたまれなく、恥ずかしい思いでいっぱいになった。

脇山でさえびっくりしている。

そもそもこれで除霊出来るのか?

いや、待てよ?

そっち関係の仕事と言うことは実は除霊でもないのかもしれない。

つまり、僕は物凄く下らないものの助手になった気がする。

これは大変だ。

3組の問題児が増えてしまった。

僕は頭を抱えたかった。

否、僕は穴があったら入りたかった。

「金輪際俺に触れてみろ。ぶっ殺してやる。」

チャイムが鳴った。

わーお。

脇山のこめかみに青筋が浮き出てるぞ。

担任はハラハラしていた。

それもそうだろう。

僕だってハラハラしている。

誰もがこの光景を固唾を飲んで見ていた。

ふと、視界の端に中山さんが青白い顔をして座って居るのが見えた。

気分が悪いのではなかろうか。

脇山の堪忍袋の緒が切れた。

「やれるもんなら「止めてっ!!」」

脇山が言い切る前に、中山さんは目を瞑って叫び、糸が切れた人形の様に倒れた。

僕と寺田は中山さんを保健室まで運び、射場さんと脇山の喧嘩は始まらないままに終わった。


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