†壱章/尚早†


[05]謎


朝から五月蝿い。

騒がしい。

理由は分かるとおり、ばあちゃんと伶羅だ。

「紘ちゃん、えらいべっぴん連れてきたねぇ。」

その年で鼻の下伸ばすなよ、ばあちゃん。

みっともないったらありゃしない。

僕は返事をするでもなく、黙々と白飯を食べた。

やはり日本人は米に限る。

横の美男子もそうなのか、はたまた腹が減ってるだけなのか、無我夢中である。

「美味しいみたいで良かった。」

母さんはエプロンを外しながら言った。

「はい、すいません。何から何までお世話になって。」

おい、こら、外面野郎。

口元に弁当箱付いてるぞ。

「子供がそんな心配しなくていいよ。」

母さん、コイツは立派な成人男性です。

「兄貴、どうなの?付き合ってるの?」

五月蝿い、黙れ。

一般常識で考えろ。

「惚れ惚れするねぇ。ハーフなのかねぇ。」

知るか、気になるなら訊けよ。

僕の隣の奴に。

僕は静かに箸と茶碗を置いた。

「御馳走様でした。」

「あ、ちょっと待てよ。紘慈。」

誰が待ってやるものか。

僕はスタスタと自分の部屋に戻って行った。

家族は僕が不機嫌なのに気付いたのか、それ以上話し掛けてこなかった。

部屋に入り、着替える為に脱いでいると空気を読まない馬鹿が入ってきた。

「なんで、怒ってんだ?」

僕はでかい溜め息を吐いた。

「また、妹に誤解されるじゃないですか。」

射場さんはぷっと吹き出した。

何が可笑しいんだ。

全くもって不愉快だ。

「まだ引きずってたのか?」

「当たり前じゃないですか!!もう懲り懲りですよ、あんなの。」

射場さんは笑うことを止めない。

寧ろ悪化の一途を辿る。

「悪かったって。」

絶対思ってないだろ。

嗚呼、駄目だ。

こんなのに関わっていたら遅刻してしまう。

僕はフルスピードで着替えだした。

すると、あ、そうか、とでも言うかの様に、射場さんまで着替えだした。

いつの間に制服なんて持って来てたんだろう。

あの時は手ぶらだった筈だ。

と言うか、制服を持っていると言うことはOBと言うことか?

なんだか、よく分からないことになってるぞ。

「おい、」

チャラい感じに制服を着こなした射場さんに話し掛けられる。

「はい。」

「お前、自転車か?」

「はい。」

「乗せろよ。」

「え?」

僕は戸惑った。

男とニけつだと?

いや、仲が良いならまだしも、昨日の今日あったばかりなのに…。

しかし、時間もない。

ここは仕方なく承諾した。

「良いですよ。」

「流石、紘慈。恩に着るぜ?」

着なくて良いよ、気持ち悪い。

僕は胸やけした。

朝ご飯の鮭が効いたのか?

とにかく、僕と射場さんは急いで車庫の方に行き、自転車に乗った。

窓から母さんが二人分の弁当を用意して持って来てくれた。

いつもの事ながらありがたい。

僕は素直に受け取った。

射場さんは、慣れていないのか照れくさそうに受け取った。

これは流石に演技派とは思えなかった。

僕は射場さんの弁当も籠に入れると射場さんを後ろに乗る様に促し、母さんの声を背に自転車をこいだ。

そう言えば、射場さん。

校長先生とかに話は付けてるのか?

「射場さん、学校に着いたらどうするんですか?」

「さぁ?」

「さぁって!!」

「赤。」

射場さんに指摘され慌てて止まる。

あれ?

そう言えば、射場さんは僕と背中合わせ状態で座っている。

そして僕は射場さんの方を向いていて、射場さんはこちらをちらりとも向いてない。

おかしすぎる。

僕は信号が青に変わったので再びこぎ始めた。

「あの、射場さんって…‥。」

僕が話し掛け様とした時、同じ学校の女子が手を振ってきた。

あんまり仲良くなかった筈だぞ?

恐る恐る後ろを見ると、やはりと言うか。

手を振っている馬鹿が居る。

僕はわざと歩道から落ちてやった。

「痛っ!!」

ふふふ、痛い目みやがれ。

僕がこぎ続けていると、頭に衝撃が来た。

「いった!!」

「仕返しだ、馬ぁ鹿。」

女子が僕らを見て笑う。

畜生。

人を呪わば穴二つか。

肝に命じておこう。

僕はそう考えてその後は、黙々とこぐことにした。

そもそも、なんでこの人は僕の高校に来る必要があったんだろう。

そんな疑問を抱きながら、僕は学校の門をくぐった。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.