†壱章/尚早†


[01]起


僕は漸く我に還る。

なんなんだ、この人は!!

そもそも、よろしくってなんだ!?

混乱する僕を余所に、彼はそのまま部屋へとあがり込む。

失礼すぎるぞ、コイツ。

見た目からしてマナーを守れない不良に違いない。

一番関わりたくないタイプの人間だ。

そう思いつつ、僕は何も出来ずにいた。

「何見てんだ?」

じとりと睨みつけられ、すごすごと頭を下げる。

よろしくって言った割には扱いが酷い様な…。

いやいや、そうではなくて、ここは僕の部屋であり僕達の家だ。

ここはガツンと言ってやろうと僕は再び彼を見た。

どうして気付かなかったんだろう。

床にも机にも彼が移動する所全てに血が滴り落ちて行る。

僕は親にバレては拙いと思い、部屋のティッシュで血の跡を拭いた。

「あー、悪ぃな。」

悪びれた様子もなく、彼はけらけらと言う。

さっきの不機嫌は何処に行ったのか。

けれどどうすることも出来ない僕には、「いえ。」としか言えなかった。

ほとほと自分のチキンに嫌気が差す。

「どっこいせーっ。」

と言うおっさんじみた掛け声と共に僕のベットのきしむ音がした。

軽く飛ぶ血飛沫。

それも僕のベットに。

「あの!!」

僕は勇気を出して声を掛けた。

「あぁ?」

強い、強すぎる。

僕は完全に引け腰で彼に注意し始めた。

「此処は僕の部屋なんですが、…。」

「そうだな。」

「ですから、その、靴とか、血とか、がですね…。」

う…‥。

僕の苦手な目で、睨みを利かしてくる。

駄目だ。

そう思った時、幸か不幸か妹が部屋に入ってきた。

「おい、糞兄貴!!さっきから何ぶつぶ…。」

拙い!!

不審者を入れた兄貴を妹が許してくれる訳がない。

口調で分かるとおり、妹は僕より強い。

僕は彼女に頭が上がらないのだ。

しかし、事態は意外な方向へ進んだ。

「きゃあぁああぁぁ!!」

妹の叫び声など、何時ぶりだろうか。

だが、仕方ないかもしれない。

なんせ彼は血みどろだ。

僕は兄として妹を守ることを決意した。

のだが、

「ほら、妹も「怪我したんですか!?大丈夫ですか!?って言うかお名前なんですかぁっ!?」」

嗚呼。

忘れてた。

妹、こと大今 伶羅(オオイマ レイラ)は、かなりの面食いだった。

「傷に響くから、ちょっと黙れ。」

「はい!!喜んで!!」

妹よ、少しは自重してくれ。

そして大声出さんでくれ。

僕はもう爆弾を抱えたくない。

ここにばあちゃんが来てみろ。

騒ぎどころじゃなくなっちまう。

「おい、紘慈。」

不意に名前を呼ばれ振り返る。

「なんか、手当て出来るもんないか?」

「それなら下のリビングに…‥。」

「ついでに服と風呂も貸せ。流石にこの格好は拙い。」

「はぁ。」

僕は言われるがままに動くしかなかった。

怖い者は怖いのだ。

お許し下さい、父さん。

僕は弱っちいのです。

致し方なく、僕は彼を風呂場まで案内した。

「で、なんで此処まで着いてくるんだ?」

僕はちらりと妹を見た。

「ごめんなさい。」

彼に注意されただけで、しゅんと俯く妹。

本当に妹かどうかすら怪しくなって来たぞ。

「じゃ、着替えよろしくな。」

彼はそう言うと、僕らを追い出してしまった。

「兄貴、いつの間にあんな友達作った訳?」

妹は興味津々で僕の顔を覗き込む。

と言われても、友達もなにも今日会ったばっかりなのだ。

だからと言って上手い言い訳がある筈もなく、僕は適当に妹をはぐらかし、部屋へ戻る様に促した。

妹は腑に落ちないようだったが、なんとか納得し、部屋へと戻って行った。

和室からばぁちゃんの鼾が聞こえる。

良かった。

もう一つの爆弾の心配はしなくて済みそうだ。

僕は自分の部屋から下着とジャージを取り出し、早く母さんが仕事から帰って来て欲しいと心底思った。

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