第2章 苦しい


[01]偶然




フワリ


生暖かい風があたしの頬を撫でる。

その風にあたしは片目を瞑る。

さっきまで蒼く染まっていた空はいつのまにかもうオレンジ色に染まっていた。

夕方の5時。

望の家からの帰宅。

あたしの周りには男子の元気な声ばかり聞こえてくる。

「ハァ…」

深い溜め息をつくとあたしの耳には聞き覚えのある声。

「…明?」

「よッ」

自転車にまたがりあたしに笑顔を見せるのは紛れもなく明。

明はあたしの前を通り過ぎた。

あたしは何がおこっているのか全く理解出来ずに携帯を手にした。

「和に聞けば…」

こぉゆぅ時にアイツが役に立つんだから。

新規メール作成のボタンを押そうとした時にまたまた聞き覚えのある声。

「…和〜??」

あたしの頭の中では全てが「?」で埋めつくされていた。

「ッ…安達…?」

その顔超ムカつく…。

「何してんの?」

自分の気持ちを抑えて、和の隣に寄り添った。

4年生の時。

あたしはちょっとだけ和より背が高かった。

けど今は6年生。

断トツ和の方が高い。

あたしが今149センチ。和は154センチ。

あたしは和を見上げて、和はあたしを見下ろす。それにあたしはちょっとムカついた。

「明クン探してる…」

あたしは携帯を手提げに入れて和と一緒に辺りを見回した。

「あそこ…」

あたしが指を指したのはあたし達の後ろ。

自転車のスピードを上げてあたし達のところへ来た。

「ぁ…えっと…バイバイ…」

明に目を向けずに和に言う。

和は困った顔をあたしに見せながら手をヒラヒラと振った。

あたしは軽く走り家に着いた。

玄関の扉にもたれながらまた深い溜め息をつく。

「明と会っちゃったぁ」

嬉しさ半分辛さの気持ちが混ざりあい複雑になる。



あたしは明の元カノでまだ未練がある。

明と会えばいつも複雑な気持ちになり後々悲しくなって自然に涙が出る。

それは今日も同じ。

今日はいつも以上に苦しくて悲しくて。

でも愛しくて。

両手で頬を強く叩いてあたしは部屋に戻る。

「あぁ…宿題しなきゃなぁ…」

頭働くかぁ?

一人でグチグチ言いながらノートやらプリントやらを出す。

「あぁ思い出すなぁ」

何故か思い出す今日の出来事。

―明クン告白されてるよ?―

―誰だろうねぇ―

明から緊急の電話が来たときはすぐに泣きたくなった。

辛くてさ…望と波がいるのにも関わらず目に涙溜めちゃった。

「やぁばぁいぃ」

そう言った時にはもう遅かった。

あたしの頬には熱い滴が伝った。

「またじゃんかぁ…」

両手で顔を覆いながら声を殺してあたしはそのまま泣いた…。

泣きやんだ時にプリントはグジャグジャになっていた。



ねぇ…

あたしはどこまで苦しめばいいの?

あたしはどこまで涙を流していたらいいの?

今日…

帰りに誰とも会わなければ涙を流さなかった。

偶然会ったせいで…

あたしはまた泣いている。



[次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.