第35章
[11]
「……本気のようで。わかりやしたよ。といっても、教えられるような奴がいたっけなあ。あっしも少しゃ心得はあるんだが空戦専門でして。
ザングールだかザンネックだったかは忘れたが、そいつは最近とんと見かけねえしな」
ふーむ、と唸りながらドンカラスは思考を巡らす。一瞬、何か思いついたかのような素振りを見せたが、
すぐに浮かんだ考えを否定するようにドンカラスは首を軽く横に振るう。ロゼリアはそれを見逃しはしなかった。
「いるんですね、思い当たる方が」
「いやいや、違うんでさあ。あー、今、思いついた奴ぁちょいと問題があるっていうか、問題の塊っていうか……。
もうちょっと考えさせてくだせえ。頭をうんと捻ればもっとマシな奴が思いつくかも――」
ドンカラスがそう言い掛けた時、玄関の方からドアを乱暴に蹴り付ける大きな音が響き、部屋がみしりと揺れる。
「最悪のタイミングで当人が来やがった……」
苦々しくドンカラスは呟いた。
・
「はあ? こいつにオレの戦い方教えろって?」
素っ頓狂な声を上げるマニューラに、ドンカラスは静かに頷く。
マニューラはちらりとロゼリアを見て小さく吹き出すように笑った。
「何の冗談だよ。モヤシがそのまま歩いてるような奴にできるわけねーだろ。
大体、オレがンなメンドクセーことタダで引き受けると思うのか?」
「おめえもそんな体格のいいがっしりした体付きじゃねえだろうが。その細っこい体で何倍も大きくて力の
強い獲物を狩る技と方法……おめえもちっちぇえ頃に少しは親父さんから習ってんだろ。一子相伝の暗殺拳じゃあるめえし、ケチケチせずに教えてやりやがれってんだ。そうだな、今貯まってるおめえのツケを清算してやる。それで手をうちな」
湧き起こる苛立ちを堪え、ドンカラスは交渉を始める。
「ツケの清算に加えてオレン十二のオボン八、だ」
「てめえ、どれだけウチでタダ飯食いやがったと……! オレン九、オボン五、これ以上は出せねえな」
「オレン十、オボン六。同盟をあちこちで結びやがったせいで狩れる対象が減ってこっちも飯が足りねえんだよ」
負けじとマニューラも食い下がる。今にも怒りが爆発しそうな顔でドンカラスはぎりぎりとくちばしを噛み鳴らす。
その脇でおろおろとしながらロゼリアは二匹のやり取りを見守った。
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