第三章 迷い〜そして戦場へ〜
[11]第四七話
「雷啼!」
「はぁっ!」
金色に輝く電撃と鮮やかな緑色の弾丸が空中で衝突し、小規模な爆発が起こる。
たとえ視界が悪かろうと、動かないならば死を意味する。
「そこか!」
いち早く見晴らしの良い上空へ抜け出たアリアが刀を大きく振りかざした。
刹那、黒煙の中から魔力の弾丸が三発跳んできた。
アリアは動じる事なく一等両断する。
その隙に如月は茂みに飛び込んだ。
樹木に背を預け、周囲の様子を伺う。
アイスコープで敵の体温から位置を特定できるのだが、接近戦を好む相手とはとことん相性が悪い。
「間合いをなるべくあけるようにしないとマズいな」
アイスコープは今生体索敵モードになっている。
画面上の光点が同じ場所をぐるぐる回っているので、まだ気付かれてはいないようだ。
しかし遅かれ早かれ見つかることは必須。
上手く隙を突くしかない。
マグナムを持つ左手に力が込められる。
「すまない……」
思わず口からこぼれたその言葉は誰に発せられたのか。
それは如月にも分からなかった。
「これで終わりだ!」
「くっ!」
如月がアリアの懐に飛び込んだ。
銃を向けて。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「耀……君?」
頬に涙で溶けた土をつけてネルフェニビアは思わず空を見上げた。
今、如月の声がした気がする。
そして自分の心をざわざわと揺らがすこの感じ。
「行か、なきゃ……」
よろめきながら立ち上がると、ネルフェニビアはおぼつかない足取りで歩き始めた。
ざわざわとする胸騒ぎは、自然公園の出口に近付くにつれてより大きくなっている。
それに急かされるかのようにネルフェニビアの足取りも段々早くなっていく。
そして、あと五メートルで出口という所で木の根につまづいた。
地面にぶつかる音のあと、ネルフェニビアはゆっくりと立ち上がった。
口元は切れ、身体中には泥と傷がぽつぽつとある。
それでも痛みを堪えて歩き始めた。
ここで諦めるわけにはいかない。諦めたら一生を無駄にしてしまう。
いつの間にか空に現われていた雨雲は、静かにゆっくりとネルフェニビアを濡らしていった。
ようやく路上に出た時、
「お待ちしていました。ネルさん」
乗用車の脇で彼女の迎えをキサラが待っていた。
「キサラ…さん……」
「さあ、急いでください。彼のためにも」
「はい……」
キサラの言葉にネルフェニビアは返事をすると同時に、キサラに抱き付いた。
肩を震わせ、嗚咽しながら泣きじゃくるその後姿はとても小さい。
一瞬驚いたキサラだが、目を細め、しばしの間ネルフェニビアをゆっくりと撫でた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「やはりあなた達はここで出会ったのね」
キサラはハンドルを握りながら後部座席に座るネルフェニビアに呟いた。
「あの人と、同じだわ。因果な事ね」
キサラの視線はフロントガラスを通り抜けて、どこか遠くへ向けられていた。
ネルフェニビアは、濡れた髪を拭くため渡されたタオルを頭に載せ、その左右の端をそれぞれの手で掴んでうつむいている。
しばしの間、流れる沈黙。
聞こえるのは雨音と車の駆動音。
途中、赤信号で停車すると、キサラがゆっくりと語り始めた。
「二十年も前に、如月大臣はあなた達と同じだったわ」
「………………」
「その当時、あの人が出会ったのは二人の男女だった。男の方は酷い怪我をしていて、虫の息……。女の方は、その男にかばわれたのか、血をかなりかぶっていたけど無傷だった………」
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