第38章
[09]
ぎすぎすしながらも止まることなく駆ける三匹だったが、木の表面に付けられた不可思議な傷を見つけると不意に立ち止まり、注意深くそれを見る。模様のようなその傷は、マニューラが残していった合図だった。
「『西へ 獲物 追う』か。もうとっくに獲物を見つけてるみたいだな」
「足跡が雪で埋まってほとんど残ってない。これ以上ぐずぐずしてたら不味いわね」
「もう終わってたりして。ギャハ」
ニューラは焦りと苛立ちに唸り声を上げた。いつも三匹ながら、狩りでは上々の成果を上げている自分達のチームが、たった一匹のお荷物のおかげで全くの約立たずになっているなど堪え難い屈辱だった。再び舌を打ち、ニューラはお荷物の来る後ろを振り替える。丁度木の影になっているのか、まだ姿は見えない。そこでふと、ニューラの頭にある考えが浮かぶ。
「おい、あのお荷物もサインの意味は知ってんだよな?」
「そのはずよ。出発前にマニューラが教えていたもの」
ニューラは口の端を上げる。そして、「良い考えがある」と二匹に耳打ちした。
「ふぅん、なるほどねぇ。あたしは賛成しないわ。まあ、止めもしないけれどね、ふふふ」
「ギャハ、あくどいの!」
「へへ、マニューラには黙っとけよ。じゃあ早速やるっつの」
ニューラ達は樹の表面をささっと爪で斬り付けると、足跡を消すようにばさばさと雪を掻き上げながら走っていった。
それから少しして、息も絶え絶えのロゼリアがようやく木の下へとやってくる。ただでさえそれ程走ることが得意ではないというのに、慣れない雪道と冷気は容赦無く体力を奪っていた。
それでもロゼリアはマニューラの期待に応えようと、めげずにニューラ達の姿を探す。だが、既に影も形もなく、その足跡さえも見つからない。
途方に暮れようとしていた時、ロゼリアは木に刻まれたサインに気付く。
『北へ 獲物 追う』
――急がなきゃ。
ロゼリアは慌てて北へと走る。上から更に刻み込まれたようなサインの違和感に気付く余裕はもうなかった。
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