〜第3章〜 清奈


[37]2006年8月1日 夜7時52分


「………っく!」

一瞬何かが飛んできたと思う。
それが何なのか見ると、

再び、曲々しい形をしたあの短剣が姿を現している。
清奈の、脇腹に
さっきの短剣が、

《ここでアリブロブリアだと……!! 奴……まさか……!》

「ぅ……あぁ……!!」
清奈が……倒れ込む。
ゆっくりと地に伏せる。

「清奈!!」
《セイナ……!》

僕とパルスが同時に言った。
思わず、抱き抱える僕。
清奈はさっきの一撃で魔力を使い果たした。
ただでさえサーベルと戦う前から清奈の力は極限されていた。そして先程の一撃で力を使いきった。
だが、足りなかった。
そして、止めをさすかのように、短剣が清奈に飛んだ。

血は出ていない。しかし、ごく僅かに残された清奈の力さえも奪いつくす。息も切らし、血の代わりに力が流れ落ちている。

「ヒィヤハハハハハ!!」
ガラクタの山の中心から
耳障りな声が聞こえる。

サーベルは、体の一部が黒い液体になりかかってはいるが、依然そこに立っていた。

清奈の一撃ですら倒れなかった、サーベル。
絶望……か。

いや。

《ユウ。戦うのですね……》

僕はパルスを握る。
サーベルに、今、立ち向かうために。
倒れた清奈を床にゆっくりと寝かせる。

立つ。
右手に、確かにパルスがあることを確認し、

僕はできる限りのスピードでサーベルに向けてパルスを構え、撃った。

弾丸はあっさり避けられ、サーベルは1メートル左にずれる。
そして

来る!!

《大丈夫です》

上から下に叩き付けるようにひっかいた爪攻撃が来るが、パルスが防御壁を強化してくれたお陰で弾く。

もう一発銃弾を撃つが、結果は変わらない。

「んなもんかぁ!? てめえの実力はよぉ!!」

サーベルが本格的に攻撃を始めたらしく、
東西南北8方向の内、
8方向全てから一斉に爪が振るわれた!!

結果に基づいて爪を振るうということは、腕が2本しか無くても、このように同時に2つ以上の攻撃を与える。今度こそまずいと思った僕。しかし8方向からの同時攻撃を、弾き返してくれたパルス。

《私の防御壁はそう簡単には破れません。あの爪攻撃なら、先程のセイナの戦いで見きっています。確実に相手の体力も落ちていますから、繰り返せば十分に勝機はあります》

「でもさっき……」

僕の所に向かってきたとき、サーベルに向かって撃った弾は余り効いている様子はなかった。


「どうすればいい……?」
《サーベルの弱点……つまり心臓を狙えば必ずダメージを与えられます》

「よし……」

遠距離の爪攻撃はパルスに任せることにした。そして僕は、
サーベルの動きを読むことに専念する。
まだ慣れもしない戦いで相手の動きを読むのはとても苦戦するが、そんな弱音を吐いていられない。

僕は、止まっているサーベルの心臓目がけて撃った。
「うぜぇ!!」

当たらないことは分かっている。だから続けて少し左に銃口をずらして続けざまに撃った。

「なっ!!」

サーベルはそれを焦って弾き返した。
駄目だ。もっと早く。
今のは効果はある。
相手より一歩上を行くように、わずか2、3秒先の未来を凌駕する。
それが、僕が考えられる唯一の勝機。

更に銃を撃つ。
とにかく撃って近づかせない。近距離での戦いで勝てるはずなどない。
少し接近されたら、またすぐに僕は後退して離れる。虎の暴れる力は、人間よりも強い。


「鬱陶しいわぁ!!」

更にヒステリックな叫びをあげながら、最も注意していた、サーベルの突進攻撃が来る!!
相手の突進は、近づかれたら大打撃は避けられない。しかしサーベルにもリスクがある。
真っ直ぐ来るのだから、心臓を狙える絶好のチャンス。
僕はそのチャンスに賭けた。

爪をまっすぐに立て、僕の体を貫くつもりらしい。
槍のように真っ直ぐ刺し穿(うが)つ漆黒の針。
どんなものよりも鋭利。
そして頑丈。

《今です!!》

引き金を引く。
今度は頭ではなく、胸を狙って、
だが……!!


「どこ狙ってんだぁ?」

まさか。
外れた。
手元が狂ったらしい!
当たったのはサーベルの左足の部分。多少そこから黒い液体が流れるが、致命傷には至っていない。

「うわっ!!」

辛うじて右に転がるように飛んで避けるが、それは無駄なあがきだった。

転がって起き上がろうと視線を上に向けたとき、

「……!!」

声が出ない。

「この至近距離なら、とれだけ壁が分厚くても意味は無いよなあ?」

接近を許してしまった。
パルスが守れるのは遠距離の爪だけ。ここまで近寄られてしまえば、パルスの防御壁が意味を成さない。
……裂かれる。
パペットショーと呼ばれたその爪を立て、

「死ね、ガキ」

振りおろ……



やっぱり、
助けてもらった。

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