〜第3章〜 清奈


[25]2006年8月1日 夜7時00分


「特異……私を狙っているネブラがいるってことを教えているのよ? 特異を通り越して裏切りじゃない」
《やはりあの子は我等を敵と思っていないのだろう》

あの少女
私の何かを知っている?
悠と、あいつは似ていない。それを頭の中で考えていたら
『本当にそうなの?』

本当では無いと言いたいのかしら。
あいつはあいつ。悠は悠。そうでは無いと言うの?

二人は関係ないはず
でもそう断言できない不安。悠は悠で……あいつは
《セイナ!》

フェルミの声で気がついた。

現時刻は7時ちょうど。
ネブラの襲撃が、始まった。



「フェルミ、奴らの位置を特定して」

みるみる世界が紅くなり、熱がジリジリと一帯を覆う。日が落ちたのに私の目の前に陽炎(かげろう)が揺れている。

「根元はこの先の観覧車の動力室から感じられる。」

私は空を見渡した。
すると北の方角に観覧車の上半分が、樹々から顔を覗かせているのが分かる。

「あっちね」

私は瞬間的にそこへ向かった。戦闘モードになった今の私なら問題の地点まで1分も要らない。邪魔っけな樹々も私の障害になりえない。動力室まで一直線の最短距離で私は突っ切る。
確実にネブラの根元に近づいている。そこに向かうにつれ、確実に周囲の温度が上昇しているのが分かる。

《この先は気温が42℃を越える。人間が侵入するには危険だ。防御壁を張らせてもらうぞ》
「防御壁は何分持つ?」
《約30分だ》
「分かった。すぐに終わらせる」

会話を終えた途端、
目の前の視界が歪む。
空間が斜めになり、捻れて次々にネブラが生まれていく。

私は立ち止まり、フェルミを強く握る。

「来たわね」

現れたのは蛇型とトカゲ型だ。
それそれ3匹ずついる。
計6匹が私の目の前に立ちはだかった。
どんなに周りは紅くとも、ネブラの姿形ははっきりと捕えられる。

相手との距離は約10メートル。風も吹かず、空気も滞っているかのようだ。

ここで時間を捕られるのは頂けない。

「フェルミ、突破するわよ」
《了解した。上手くやれよ》

私は10メートルの距離を一瞬で詰める。
まず狙いを定めたのは私が移動する線上にいたトカゲだ。右手に剣を持ち、2本足で立っている。

そいつが、突進する私に剣を突き刺そうとする。
そんなもので、この私は止まらない。
私は剣を上に振りかぶる。そして
そのトカゲの剣に叩き付ける!

その瞬間私の剣が放電する。目の前にいるトカゲは剣を通じて雷に撃たれ、黒く焼け焦げ落ちた。

すぐさま下から蛇が2匹纏わりついてくるのを飛んで避けて、

「プレスト、デュオ!」

2本の雷が空から落ちて、蛇に直撃する。

さらに私は2匹目のトカゲの上に着地して踏みつけ、そのまま首を刈り取る。

そしてその剣筋の勢いで後ろにいたトカゲに袈裟斬りを叩き入れた!

残り一匹のヘビが這ってくるのを強く踏みつける。
私の踏んだ足から地に雷が走り、最後の蛇も一瞬で形を失った。

再び直進する。
数メートル進み、林の中に入る。ここを通るのが最も早い。

すると

木の陰、右方から牡鹿が私に体当たりしてくる。鋭い角をたてて襲いかかる!

《セイナ!》

私はとっさに右手で鹿の角を掴む。

「はああぁっ!!」

その角を握って鹿をそのまま持ち上げ、反対の左へと投げ飛ばした。鹿は大木に勢いよく衝突し、そのまま気を失ったらしい。

とどめにその鹿に雷を落とし、更に前へと進む。

今度は上だ。
空中からカラスが10羽ほど私に向かい猛スピードで落ちてくる。

「フェルミ」
《了解した》
私は10羽のカラスの中心を捉え、そこに突きを入れた。

「今よ!」

そしてフェルミが紅く放電し、残りのカラスも全て散った。

《動力室まで後100メートル強だ》
「分かった」
《感じるか?》
「ええ、屋根の上に……」

動力室の屋根の上から大きなネブラの気配が感じられる。そいつが指揮をとっている。

私は残りの100メートルを全速力で駆け抜ける。

世界全てが脆く(もろ)見える。私は前方だけを見ていた。横から何かが入ったって私は止まらない。
前方にトカゲが現れたが、体当たりで遥か遠くに吹っ飛ばした。
そしてそのトカゲが持っていた小さな槍を、私は走りながらキャッチして前方に飛ばす。
私の読み通り現れたウルフの胸を穿(うが)ち、突き破った。


「着いた」

私の目の前に観覧車がそびえたっている。その右隣にある直方体で銀色の建物、それが問題の場所らしい。

《後ろだ!》

振り返ると3本の弓矢が飛んで来る。

「はっ!」

私は剣を一振りして矢を折った。

さらに

観覧車の座席の扉が開く。一つの座席から一人ずつ、弓矢を持った黒の男……アーチャー型が姿を現す。
全員が私に狙いを定めていた。

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