第40章
[62]
「いつそんなこと言ったよ。成り行きでツルんだまま話を聞いてはいたが、オレはただコイツに会うために来ただけだからな」
爪でペルシアンを示し、マニューラはつれなく答えた。ペルシアンは暫しきょとんとしていたが、
ロズレイドの落胆した顔を見て、にんまりと笑う。
「カントーの事は今まで通りボクに任せておくニャー。後、マニュちゃんの面倒もニャ、ロズレイドくぅん。にゃははは!」
勝ち誇ったように高笑いを上げながら、ペルシアンはマニューラの肩を抱き寄せた。
瞬間、マニューラの眉間にぴしりと皺が寄るが、堪える様にぴくぴくと引き攣った笑顔を浮かべる。
ぶるぶると今にも振り上げそうに震わせている拳からは、薄っすらと白い冷気が漂っている。
当のロズレイドはまるで心に思い切り破壊光線でも打ち込まれた様な表情を浮かべて固まっており、
もう何も聞こえていないし見えていないようだ。心なしかやつれている様にさえ見える。
ミミロップは「あちゃー」と頭を抱え、蚊帳の外の俺とアブソルとムウマージ、ついでにデルビルは呆気に取られていた。
本当に何なのだ、こいつらは。まあ、これからは余計な心労の一匹がついてこなくなってくれるのだ。
一応、俺にとってはめでたしとしよう。――一度出来てしまった腐れた縁は、中々途切れぬという。
嫌な予感は尽きぬが……やめておこう。
すっかりと日も落ちた暗い町外れ、街灯の明かりを避けながら俺達は駆け抜けていった。
「あ、あれが、ヤマブキ駅、だ」ぜえぜえと息を切らして走りながら、デルビルは言った。
示された先には、アーチ状の屋根をした大きな建物が見える。肝心のリニアが停止している為か、
最低限の明かりしか灯されておらず、駅の周囲だけ町から切り離されてしまっているかのように暗く寂しい。
俺達は駅の裏手から近づき、適当な窓を見つけてそっと中の様子を窺った。広い内部は非常灯以外の電気が
落とされていて薄暗く、人間は見当たらない。いや、たった一人、奥に一箇所だけ明かりの点いた部屋――
事務所というものだろうか――に、駅員らしき制服を着た人間の姿を見つけた。どうせ誰も来やしないと思っているのだろう、
駅員は席にだらしなく腰掛け、暇そうに煙草を吹かしながら手元の雑誌らしきものをぱらぱらと捲っている。
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