第41章
[66]
「ど、どうするんだよ! 結局、行き止まりじゃねーか!」
あっしはマフラー野郎に掴みかかり、叫びつける。
「くたびれ損だって言うのかい……」
ニャルマーは力なくへたり込んだ。
あっしらを追って階段を駆け上ってくる足音は、もう直ぐそこまで来ている。地下の牢屋の鍵束なんて
今更何の役にも立たないし、合う鍵を下から探してくるなんて余裕なんて当然あろうはずもない。
先に進むことも、後戻りも出来ない八方塞がりだ。
「行き止まりって、たかがあんな薄そうな扉がたったの一枚だろ?」
きょとんとした様子でマフラー野郎は答えた。
「ああ? 薄いったって、中々しっかりしてそうな材質の扉じゃねえか。ガキ用の牢屋の鍵すら
壊せなかったお前にゃ――」
あっしが言い終えぬ内に、青い稲光が瞬き、衝撃音と共に黒焦げになった扉が外側に大きく倒れこむ。
「やっぱり大した事ないじゃないか。”出来ない”と、”やらない”じゃ大きく違うんだよ、ヤミカラス。
君は少し試しもしない内に文句を言いすぎるきらいがあるな。さあ、ドアも開いたし屋上に出ようか。
百貨店の人達には申し訳ないことしたけど、非常時だし仕方ないね」
少し恐縮した様子で、マフラー野郎は倒れたドアを踏み越えて外に向かっていく。
「……ここまでやれるなら、牢屋も自力で壊せただろうが。なんでわざわざ、俺様をここまで巻き込みやがった」
「チビを助けるまで派手な事はして騒ぎを起こしたくなかったし、外から開けるにも電撃じゃあ中の子が危ないだろ?
それに、話してみれば君は悪い奴じゃなさそうだったから。誰かの道具として生かされるのではなく、
己の力で生きていく明日が欲しい――その理想、少し手助けしたくなったのさ」
マフラー野郎は横顔だけこちらに向けて、口端を少しだけ上げて笑った。それはこれまであいつが
あっしに対して向けた笑顔の中で最も微かなものだったが、最も含みの無い純粋な温かみを感じた気がした。
あいつの背中越しに差し込む久方ぶりの外の光は、少しばかり目に染みた。
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