第36章
[26]
「……あんまりマージのおともだちをいじめないで」
しょげた様子でムウマージは呟く。ドンカラスはすぐさまムウマージを睨み付け、
頭に巻いたスカーフを取って、平たくなってしまった帽子のてっぺんを見せ付けた。
「いじめてんじゃあねぇ、お仕置きしてんだ! あっしの自慢の頭をハスボーみてぇにしてくれた名美容師にな。
くそっ、また生え揃うのにどのくれぇかかることやら……。特にマニューラには絶対知られちゃならねぇ。
あの糞ネコに見られたが最後、死ぬまで……いや、末代まで語り継いで笑い種にしやがるにちげえねぇぜ」
足元から微かに漏れる笑い声に気付き、ドンカラスは叩き付けるように札を更に一枚、扇風機に張りつける。
「笑っていられる立場じゃあねぇだろ」
「うわあああ、む、むず痒さが増して体中がちくちくしてきた!
もう謝るから勘弁してくれよ! 本当にゲンガーのデブとは関係ないんだ! 今回のイタズラは自分で考えたことさ」
「マージがやったこともか?」
「ああ、オイラがマージさんにやらせたんだよ!」
はっとした顔をしてムウマージはロトムを見る。そしてムウマージはドンカラスに何かを言おうとしたが、
扇風機の首がそれを思い止まらせるように僅かに横に揺れた。
ロトムはムウマージに恩義を感じていた。忘れさられ置き去りにされたことに気付かず、
ロトムは狭いテレビの中で仲間を待ち続けていた。しかし、いくら待っても仲間達は現れず、
それどころか洋館には見知らぬポケモン達がどんどんやってきて住み着いていく。
出るに出られない軟禁状態に陥ってしまい、不安に押し潰されてしまいそうな所で、ムウマージが現れて外へ連れ出してくれたのだ。
今回のイタズラをはじめに思いついたのはムウマージだったが、ロトムはそれを庇っていた。
――ほんとうだったらマージももっとおこられなきゃいけないのに。あとでロトムにあやまらなきゃ……。
その時、玄関から扉がゆっくり開かれる音と、どこかおどおどした声が響いてくる。
「ご、ごめんくださーい! 誰か居ますかー?」
年若い人間の少女の声だった。
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