side story


[33]時を渡るセレナーデ -27-



「目標を視認。周辺にネブラを確認した。撃つ」


 後部甲板に着いた如月は、背中に下げていたロングバレルで大口径のライフルを構えた。


 左目の眼前にあるアイスコープに十字の線が浮かび上がり、敵との相対距離が左上に表示されている。


「人魚の姿をしたネブラか……」


 左目に映るネブラは緑やオレンジの輝きを持つ半漁人だった。
 水中戦に特化した敵の襲撃は想定していたが、少々分が悪い。


 一定レベルの魔力攻撃を弾くあのAMC装甲が一撃で大破したのだ。

 先の攻撃で高出力炉が暴走に近い状態になってしまった。次に直撃したら沈没は免れない。


「この艦には指一つ触れさせやしない。覚悟しろ」


 ライフルを構えて引き金を引いた。
 直後、音速で弾丸が飛翔し、大爆発が起こる。


「……外したか」


 感情を殺した抑揚のない口調で呟くと、ただちに廃筴して弾丸を薬室へ送り出す。





 薬莢には魔力を充填してあるので、注入量によって威力が決まる。なによりも、火薬ではないので、水中でも使えるのだ。さらに言えば、爆破系の魔法を刻み込んだ弾丸は威力が遥かに高い。


「反撃か」

『油断するなよ。迎撃距離はなるべく長くしておけ』

「分かっている」


 如月はまた狙撃銃を構え直した。
 左目に見えるのは、高密度のエネルギー塊。その威力と速さもあの弾丸とほぼ同じ。
 しかし負けるわけにはいかない。ここで折れたらその先にあるのは奈落の底のような、絶望という闇があるだけだ。



 如月は迫り来る高密度エネルギー体に狙いを定めて引き金を引いた。
 弾丸が音速となりそれと衝突、互いが持つエネルギーで打ち消し合い、爆発を伴って消失した。




 直後、“うみしお”から轟音と大きな揺れが生じた。
 ミサイルが発射されたのだ。
 垂直発射(VLO)システムにより両舷のミサイル発射管から合計八基が放たれた。
 それらは一度海上に出た後、再び海中へ飛び込む。次の瞬間にはネブラが膨大な熱量と衝撃波に包まれていた。


「チッ。まだ生きているのか」

『やはり現代兵器が通用するのは雑魚のみのようだな』

「こうなったら接近戦に持ち込む」

『待て。奴等の誘いに乗るつもりか?』

「仕方ないだろう。DSDの全艇発進さえ済めば……」


 如月はアストラルと口論に近い議論をしながら後ろを振り返った。


「こざかしい連中め!」


 背後から迫っていた獣型のネブラを銃身で殴り飛ばしたのだ。
 どうやら敵の包囲網に引っ掛かってしまったらしい。
 それでも如月や“うみしお”は止まるわけにはいかない。
 それぞれが余す事なく全ての力を振るい、敵の陣形を崩している。


「アストラル、連射で倒したほうが早くないか?」

『正論だな』


 如月は相棒の返事を聞くと同時に今手にしているロングバレルの狙撃銃を肩に掛けた。そして黒衣のコートの内側から取り出されたのは、ストックが短く切り落とされたアサルトライフル。




 セレクターを連射に変更すると、ためらいなく引き金を引いた。

 直後、轟音に近い発射音と供に無数の弾丸が敵に向かって飛翔する。


「魔力の塊を防げるものなら防いでみろ! これで貴様らを潰す!」







◇◆◇◆◇◆◇◆







「なんだか凄い事になってるね」

「仕方ないわ。ネブラが強固な防御陣を展開しているのだから」


 清奈は当たり前と言わんばかりの口調で悠に言い返した。



 事実、ネブラとの交戦が始まってからくぐもった爆発音が度々起きている。





 ネルは不安でたまらないのか、目をつぶって必死の表情で手を合わせて祈っている。
 ハレンはそんな彼女の肩に手を掛けて安心するよう気遣っていた。


「如月が出てから二十分が過ぎたわ。そろそろDSDに乗り込んだほうがいいわね」

「そうですね」


 清奈の提案にハレンが短く同意する。





 悠はあの小型潜水艇の外観を思い出して、少し不安になってきた。







 いくら科学技術の発展が著しいこの時代でも、ネブラの大包囲網をくぐり抜ける事が本当にできるのだろうか。




 たとえ可能だとしても、もし操縦が上手くできなかったらどうしようか。



 何気なく思う疑問が大きな恐怖となり、すぐさま考える事を放棄した。


「行くわよ」


 清奈の明瞭とした一言が鶴の一声となって悠達は立ち上がった。





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