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《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

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[44]７月３０日

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｢おい万事屋、てめぇいつ帰って来た。｣

｢ニコチンマヨ臭い息でうちに入って来んの、やめてくんない？

さっきようやく久々に帰宅したとこだ。それがどーした。｣

｢じゃあ矢文騒ぎも知らねぇって事だな…。

…お前、女がいんのか？｣

｢あぁ、いるさ。
あんたんとこの女隊長だよ。｣

｢んなこたぁとっくの昔から知ってらぁ。

それ以外に…だ。｣

｢いる訳ねぇだろ、バァ～カ。

二股とか、んな面倒臭い事この俺がすると思うか？｣

｢……お前が不在中、華蓮のところに毎日矢文が届いた。
内容は全部『私と銀さんは付き合ってるんだから、別れて』的なモンばかりだ。

しかもこないだの夜勤で華蓮が見廻り中にその女に出くわしちまって、お前との間に出来た赤ん坊を見せ付けられて、相当なショックを受けてるぞ。｣

｢ハアァ～！？何だそりゃ。
あんたらバカですか？

俺はここ三年間、女と付き合った事実はねぇの。

なのに大きな子供ならまだしも、何で赤ん坊がいんだよ？

赤ん坊がいたとしたら、どー計算しても二年以内にその女と何かあったって話しだろうよ。

だから、それは事実無根だね。

分かったらサッサと帰れ、このヤロー。｣

｢……その話、本当なんだな。

俺と盃を交わした兄妹を傷付けてみろ、タダじゃおかねぇからな。｣

・―・―・―・―・―・

ショックで何も考えられない。

仕事もするけど心ここに在らず。

ただ分かっている事は一つ

…あの赤ちゃんの幸せの為にも、もう銀時に逢ってはいけない…

・―・―・―・―・―・

夕方、緊急に局長から召集がかかった。

副長以下、隊長クラスの者が局長室に集められる。

真剣な表情の局長を前に、みんなにも緊張が走る。

｢赤ん坊が誘拐されたとの知らせが入った。

名字は証せないという事で匿名なのだが、赤ん坊の名前は【勘七郎】という。

某財閥の跡取りで、数日前から行方不明なのだそうだ。

所轄だけではどうにも手掛かりが掴めなかったらしく、今頃になってこっちに要請があった。

ちなみにこれが【勘七郎】ちゃんだ。｣

局長が写真を取り出した。

写真の赤ちゃんは

銀髪で

死んだ魚みたいな目をして

銀時にそっくり…

あれ？この子見たことある…

…あっ！

この間のくの一が抱っこしてた赤ちゃんだ！！

じゃああれは銀時の子供なんかではなく、くの一がよその赤ちゃんを誘拐してたって事！？

｢局長、私心当たりがありますので、捜査に向かいます！！｣

私は万事屋へ走った。

銀時ならあの女の事を何か知ってるかもしれない。

知らなければ一緒に調べてもらうまでだ。

銀時が帰って来ていますように…

・―・―・―・―・―・

私は全力疾走で万事屋へ向かった。

何故だか分からないけど、銀時が帰ってきている確信があった。

｢銀時！！いる！？｣

勢い良く引き戸を開けると、奥から眠たそうな銀時が頭を掻きながら出て来た。

｢おぉ、華蓮かぁ。久しぶり。
元気してたか？

さっきマヨ星人から聞いたぞ。

ヘンな矢文が届いて大変だったらしいな。｣

銀時、知ってたんだ。

てか、土方さんが教えたのか。

珍しい事もあるもんだ。

｢俺ここ三年間、女とエッチなんかなーんもして無いから。

だから心配するな。
アレ俺の子じゃねーから。｣

信じてたつもりだったけど、改めて銀時の口から答えを聞き、安堵して自然に涙が溢れた。

｢そうですよ。
銀さんモテないから、どっかで赤ん坊こさえて来るなんて、到底ありえませんよ。

だから安心してくださいね、華蓮さん。｣

後ろから助手の新八君も口添えしてくれた。

｢何だと新八コノヤロー！お前に言われたかねぇんだよ、駄メガネ！！｣

｢あ～っ、何ですか！影が薄いキャラだからって駄メガネって事はないでしょーが！！｣

そうだ、こうしちゃいられないんだった。私は勘七郎ちゃんを探す為にここへ来たんだわ！

ギャーギャー騒いでいる二人を静止し、事情を話すと、銀時は顎に手をあててしばらく考えていた。

｢くの一、くの一…

あっ、もしかして…

俺と付き合っていると吹聴しているくの一っていやぁ、アイツじゃねぇか？

なぁ新八。｣

新八君もパッと閃いたらしく、

｢そうですね！あの女に間違いありません。

猿飛あやめ、通称さっちゃん。

何か勝手に勘違いしてて、いつも銀さんを困らせてる女なんですよ。｣

と説明してくれた。

｢この時間帯なら、【くの一喫茶】でバイトしてるはずです。行きましょう！｣

私は銀時のバイクの後ろに乗り、新八君と神楽ちゃんは犬の定春にまたがって、【くの一喫茶】へ向かった。

・―・―・―・―・―・

繁華街の中心部にある【くの一喫茶】へ着いた。

私がいつも取り締まっている街ではないか。

まさかこんなそばに矢文の犯人が潜んでおり、誘拐事件を起こしていたなんて…！！

銀時を先頭に、みんなで店内へ入った。

すると見たことのある長い髪の女性が、銀時目掛けて走って来て、いきなり私の目の前で抱きついた。

｢きゃ～っ、銀さん！！
帰って来てたのね。

さっちゃん、寂しかったぞぉ♪｣

間違いない。
この女だ。
あの日赤ちゃんを抱いていた女だ。

｢銀さんがお仕事でいなかった間に、私達のかわいい赤ちゃんが生まれたのよぉ！｣

｢…ほぉ～。で、赤ん坊はどこだ。｣

｢今は控え室でお利口にねんねしてるわ。｣

｢連れて来い。｣

｢ねんねの時は起こしちゃダ～メ！

もぉ、銀さんたら慌てん坊さんなんだか…｣

｢いいから早く連れて来い！！｣

さっき万事屋で見た眠たそうな銀時はそこにはいなかった。

代わりに鬼の形相の銀時が立っていた。

大きな声で怒鳴られたさっちゃんは、目に涙を溜めて泣いて…

あれ？喜んでる？
いや、悦んでんの！？

つか顔赤らめて、余計でも銀時に擦り寄ってんですけどー！！

｢あ、言い忘れましたけど、さっちゃんは極度のＭです。｣

マジですかー、新八くーん！？

埒が明かないと判断し、お店のオーナーに事情を話して控え室から勘七郎ちゃんを連れ出してもらった。

｢あっ！私と銀さんの赤ちゃんに何するのよ、返して！！｣

さっちゃんは赤ちゃんを取り戻そうと駆け寄って来たが、赤ちゃんに触れようとする手を捕まえ、私は非情にも手錠をはめた。

｢乳児誘拐の容疑で逮捕します。｣

またこーゆー女は手錠とかで悦んじゃうんだろな～…

と思いきや、顔を覗き込むと、目からは先程とはまた違った涙が流れ、哀しみに満ち溢れた表情となっていた。

｢赤ちゃん…私と銀さんの…赤ちゃん…｣

連絡を受けて駆け付けた真選組隊士に連れられてパトカーに乗り込むまで、さっちゃんはずっと赤ちゃんに向かって呟いていた。

勘七郎ちゃんは自分を巻き込んで大事件が起きている事も知らず、私の腕の中でスースー寝息を立てている。

あの時、連行されて行ったさっちゃんの顔は、[女]であり[母親]であったように思う。

やった事は犯罪だが、そこまでしても銀時を手に入れたいと真剣に想っていたさっちゃんを、私は憎めない。

さっちゃんの気持ちを思うと、切なさに胸が痛む。

勘七郎ちゃんの寝顔を眺めながら感傷に浸っていると、銀時が横から引き取り、言った。

｢やっぱ男の子欲しいよなぁ。｣

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