暴走堕天使エンジェルキャリアー
[41]乙女の時間 2
ピリリリリ。
携帯の着信音で九十九は目を覚ます。上体を起こす気力もなく、だらしなくテーブルの上の携帯に手を伸ばす。
しかし、すんでのところで着信音が止まった。
「なんだよ…」
伸ばした手をだらんと下ろし、再びまどろみへ堕ちていこうとしたとき、再び着信音が鳴った。
「…はい…」
「一尉か?おはよう。」
電話の向こうの声を聞き、九十九の頭が冴える。
「おっ、おはようございます、三佐。」
電話は小笠原からだった。九十九は電話越しに敬礼する。
「今日は非番だったな。少し話があるんだが…出てこられるか?」
九十九は壁に掛けた時計を見る。昼食に丁度良い時刻だった。
「ええ、大丈夫です。場所はどうします?」
「そうだな…諏訪公園でどうだ?」
「わかりました。すぐ行きます。」
「ああ。」
通話を切る。九十九はぐっ、と体を伸ばすと、さっさと身支度を整え部屋を出た。
十数分後、九十九は待ち合わせの公園へやってきた。小笠原の姿はまだない。
九十九はベンチに腰を下ろし、ぼー、っと空を眺める。空は冴えた水色だった。
「なんでだろ…青色、嫌いだったのにな。」
九十九はぽつりとつぶやく。しばらく黙って空を仰いでいると、九十九の視界を人影が遮った。
「待たせたな。」
小笠原であった。
「いえ、俺も今来たところです。」
「そうか。喫茶店で構わないか?」
「ええ。任せます。」
二人は並んで歩き出した。
「すまなかったな、急に呼び出して。」
二人は喫茶店のオープンテラスにいた。周りには数組のカップルの姿がある。
だがそんな空気に少しも感化されることなく、小笠原と九十九は向かい合っていた。
「いえ、丁度食事に行こうと思ってたところだったんで。」
「ああ…」
小笠原はコーヒーを一口すすり、間を置いてから口を開く。
「水無月二尉の体調はどうだ?傷は治まったのか?」
「彩夏なら大丈夫ですよ。昨日も腕振り回して春紀をいじめてましたから。」
「そうか…」
二人の間に沈黙が訪れる。
「で、話ってなんですか?」
沈黙に耐えかね、九十九が話を切り出す。
「ああ、それなんだが…い、いつもすまないな。泊めてもらって。」
「?」
九十九はしばらく言葉の意味が解らなかった。少しの時間考えて、ようやく言葉の意味を理解する。
「ああ、そんなことですか。別に構いませんよ。部屋、余ってますから。あ、家教えてもらえれば今度からは家に送りますよ?」
九十九は薄く笑って応える。その笑顔に、小笠原は鼓動を強めた。
「あ、ありがとう。それから…」
「はい?」
「非番なんだ。敬語はやめてくれないか?」
「そう言われても…まぁ追々ってことで。」
九十九は苦笑いを返す。
「私もそのようにするから。煤原、君…」
「じゃあ、九十九、でいいですよ。」
九十九の薄い笑みに、小笠原の鼓動は益々強くなる。
「わたしも…みなみでいい。」
小笠原は九十九から目を背け、小さくつぶやいた。
ピリリリリ。
突然鳴り出した小笠原の携帯の着信音が、ほんわかとした休日の空気を切り裂いた。
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