†壱章/尚早†
[06]務
僕は自転車置き場に着くと自転車を置いた。
射場さんは、鞄も持たずスタスタと一人で歩き始めた。
いや、鞄がないのは当たり前だが。
学校の構造は分かっているのだろうか?
途端、射場さんが止まった。
「なぁ、3組って何処だ?」
手をポケットに突っ込んだまま、少しだけ振り向いて言う。
「あ、それ、僕のクラスですよ。」
「なんだ、そうかよ。」
僕は射場さんの所まで、歩きながら言った。
「3組になんか様なんですか?」
射場さんは少し考えてから、「誰にも言うなよ。」と前置きしてから話し出した。
「3組に、西山 結城(ニシヤマ ユウキ)って奴が登校拒否になってるだろ?」
なんでそんな事知ってるんだ?
確かに、余り関わりはないが、うちのクラスの西山君は最近学校に来ていない。
まぁ、一応登校拒否の類だろう。
「はい、居ますよ。」
「俺が、そうだ。」
一瞬気持ち悪い沈黙が広がる。
「は?だって、昨日自分で射場 行久って…。」
射場さんは、「しっ」と周りを気にしながら息を吐いた。
「今日俺は、西山 結城として学校に居なきゃいけねぇんだ。」
ちょっと、待てよ?
西山君ってたしか、言い方は悪いがデブで眼鏡で陰キャでチビじゃなかったか?
どう考えても射場さんは、僕と同じくらいの身長で180近くある。
その上、イケメンでチャラチャラだ。
どう考えても、
何処をどうとっても、西山君には結び付かない。
「バレないと、思ってるんですか?」
「其処まで言うか?」
いや、其処までって言われても…。
似ても似つかないから仕方ない。
射場さんはちょっと困った様に頭をかいた。
「やっぱ、アイツに頼むしかねぇのか…。でもなぁ、…。」
僕は、何故だか妙な不安を抱えた。
「もしかして、『仕事』ですか?」
射場さんは、幽霊関係の仕事をしている、と言った。
つまり、もしかすると、西山君は…。
射場さんは、少し声のトーンを下げて「あぁ。」と言った。
嗚呼、やっぱり。
僕は重苦しいモノを背負った様な気分になった。
射場さんはスタスタと歩き出す。
僕はやるせない気分で、憂鬱になる。
射場さんが言ってた、“やること”って言うのはこのことか。
この仕事が終わるまで、射場さんを手伝おう。
少なからず、クラスメイトが関わってるんだ。
何もしない訳にはいかない。
きっと楽な仕事ではないのだろう。
何が出来る訳じゃないけど、射場さんが言ったんだ。
僕は射場さんの所へ駆け寄った。
「なんだよ、気持ち悪ぃな。」
「僕が出来る事なら、手伝いますから。」
射場さんはびっくりした様に僕を見た。
そしてまた、効果音の付けにくい笑い方をして言った。
「頼りにしてるぜ?」
「はい!!」
こうして、僕は射場さんの助手となった。
が、
壮絶なチャイム音。
しまった!!
遅刻である。
「急ぐぞ、紘慈!!」
僕は、軽く頷いて射場さんと一緒に教室まで駆け出した。
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