第41章
[15]
・
森を進む最中、前方十数メートル先の木の陰に自分を待ち構えるように潜む気配を、マニューラは鋭敏に察知する。気付いている事を気取らねない程度に僅かに歩を緩め、手の内にいつでも投げ突き立てられるよう氷の刃を忍ばせながら、その正体を思案する。
コピーの軍勢の者だろうか。ピカチュウ達と行動を共にし、スピアーを迎撃してしまったことで、奴らには既に敵として顔が売れてしまっている可能性が高い。あるいは、腹を空かせた地元の野生ポケモンが、舌なめずりをしながら狙っているのかもしれない。
この辺りに棲んでいそうな比較的危険なポケモンというと、オオタチやアーボックぐらいであろうか。
――後は、アリアドス。オオタチはコラッタのような小型の獲物しか狙わないし、アーボックの長い巨体はあんな細い木陰に隠すことなど出来ないだろう。アリアドスは……。
毒々しい赤と黒の縞模様の体と、蠢く黄色と紫の六本足を頭に思い浮かべてしまい、マニューラは思わず顔を少し強張らせる。
――平気だ、もうあんなガキの頃のようなヘマなんてしない。一匹でも簡単にやれる。
既にばれている事に気付かず続けている待ち伏せ程、間抜けなものはない。
あんなばればれの気配を発している輩など、いずれにせよ大した相手ではないだろう。
こちらから強襲を仕掛け、一瞬で確実に仕留める。
マニューラは意を決し、余計な考えも振り払うように、目にも留まらぬほど素早く音も無く地を蹴った。
何者かが潜む木に至る前にマニューラは跳躍し、木と木を飛び移るように蹴りつけて裏側へ回り込む。
その勢いのまま爪で斬りかかろうとした寸前、潜んでいた者の正体――ロズレイドの姿を目の当たりにし、マニューラは咄嗟に狙いを外す。首元に触れるぎりぎりの所に鋭い刃のような爪が深々と突き立ち、びくりと息を呑んでロズレイドは身を竦めた。
「オメー、なんで――」
呟きかけたところでマニューラはハッとしてロズレイドの首根っこを押さえ、「“ピカチュウの”?」と、合言葉を確認する。
「じ、“人生”……」
返ってきた応えに少し気抜けしたような息をつき、マニューラはロズレイドから手を離した。
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