暴走堕天使エンジェルキャリアー


[56]東京決戦 後編


片翼をもがれたBEASTと対峙する、応急処置を施された不恰好なラファエルと、首筋から血を流す0号機。
互いにじりじりと間合いを窺がい、攻撃のチャンスを待つ。
「じれったいわね…」
彩夏は額に脂汗が浮かぶ。
(はやく決めないとあやの身体が保たないか…)
九十九はモニターの向こうのBEASTを見詰める。間合いは丁度、一っ飛びで懐に入れるくらいの距離。
次の瞬間、0号機は地を蹴り、素早くBEASTに詰め寄る。BEASTはジュニアを前面に寄せ、0号機の攻撃を防ごうとする。
だがそこに、ラファエルが放ったマイクロブラックホールが直撃し、ジュニアの一体が苦悶の表情を浮かべ、消失する。
「ナイスアシスト!」
ぽっかりと空いた無防備な空間に向け、0号機がシャイニングフィンガーを突き出す。その輝く右手は、BEASTの額を捉える。
「極まったか!?」
管制室の小笠原が声をあげる。
だがBEASTは口角を吊り上げ、いやらしく嘲笑う。そしてジュニアの一体を口に含むと、もげた片翼を再生させ、大きく羽ばたく。
「うおっ!?」
0号機は衝撃波で弾き飛ばされ、後方でラファエルの右腕に抱き止められる。
「大丈夫?」
ラファエルは0号機を抱えたまま、左脇に構えたマイクロブラックホール砲を放つ。BEASTは再びジュニアを前面に集め、マイクロブラックホール弾を防ぐ。

「ダメだ…完全に力負けしてる。」
「そうね。MB砲もエネルギー切れ。」
そう言ってラファエルはマイクロブラックホール砲を乱暴に脇へ放る。そして二人はモニター越しに視線を合わせ、頷く。
すると0号機はBEASTへ向かい一気に間合いを詰めると、右腕を突き出す。その攻撃をジュニアが防ぐと、0号機を中心に放射状に衝撃波が広がり、ビルの残骸を宙に舞わせる。
そして間髪入れず、0号機の背後からラファエルが飛び出して、もう一体のジュニアに跳び蹴りを極める。ジュニアが奇声をあげながら消失すると、BEASTも奇声をあげ、大きく仰け反る。
そして二機のエンジェルキャリアーはバックステップで間合いを取る。
「力でダメなら‐」
「手数で勝負、ってね!」
今度はラファエルが先行し、大きく宙に舞う。空中で数回回転し、BEASTの脳天めがけ踵落としを繰り出す。
BEASTは両腕を頭上で交差させ、ラファエルの踵を受け止める。が、がらがらのボディを0号機に晒してしまう。
0号機はその好機を漏らさず、シャイニングフィンガーを繰り出す。が、寸でのところでジュニアに阻まれ、BEASTに攻撃が届かない。
「くそっ!!」
0号機は無理矢理に掌を押し込み、ジュニアの頭部を握り締め、潰す。そしてジュニアは奇声をあげて消失する。
BEASTは両腕を頭上で構えたまま、悲鳴をあげて羽ばたき、エンジェルキャリアーと距離を取る。

「ジュニア排除!一気に決めるぞ、あや!」
九十九が彩夏に目を遣る。モニターに映された彩夏は顔中に脂汗を浮かせ、息を荒くしていた。
「あや、大丈夫か?」
「…ちょっち、ヤバイかも…」
そう言って、彩夏はシートの下のファーストエイドボックスから簡易注射器を取り出し、右腕に針を当てスイッチを押す。だが容態は悪く、ラファエルは片膝を地に付けた。
そんなラファエルの異常を察知したBEASTは、目標をラファエルに絞り、一瞬にしてラファエルの懐へ這ってきた。その速さに彩夏はもちろん九十九も対応出来ず、BEASTに一撃を許してしまう。
「きゃあっ!」
「あやっ!」
0号機が手を伸ばす。だがその手はラファエルに届かなかった。
後方に殴り飛ばされたラファエルはビルを巻き込み、大きな音を立てて瓦礫に沈む。
「ラファエル、沈黙!心拍微弱…水無月二尉からの応答、ありません…」
桐嶋の報告に、小笠原の表情が曇る。
「ああああぁぁぁ!!」
激昂した九十九は0号機の右腕を大きく振りかぶり、BEASTに拳を振り下ろす。だが脇腹にBEASTの一撃を喰らい、後方へ殴り倒される。
BEASTは0号機を尻目に、ゆっくりとラファエルへ歩み寄る。
「やめろ…」
BEASTがラファエルの前に立つ。
「やめろ…」
BEASTはラファエルの首を掴み、口を大きく開く。
「やめろおおおぉぉぉ!!」
突然、0号機が眩い光を放つ。次の瞬間、0号機はBEASTとラファエルの間に立ち、BEASTの腕を引き千切っていた。
そして身体を捻り、BEASTの腹に蹴りを入れ、一蹴する。0号機は神々しく輝き、大きな翼を広げ、宙に佇む。
そして0号機のコクピットのモニターは赤く染まり、英文が画面を埋め尽くす。

「"Michael" operation system standup」

最後の一文が画面に映される。ここに最後の天使、「ミカエル」が覚醒した。

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