〜第5章〜


[53]2007年7月20日 夜中4時33分


「ところで長峰。この周辺にいるタイムトラベラーはお前一人じゃねえよな? だれだ?」

瀬戸大吾郎……瀬戸先生もタイムトラベラーなら、悠の居場所は分かっているのは不思議でもなんでもない。
でも……なぜか。

こいつには教えたくない。

「お前が気を許す相手なら、まあ想像はつくんだがな」

ガハハ、と汚い笑い声をあげた。

《何を戸惑っている。まだ奴を不審に思っているのか?》
「当たり前でしょ。どこの馬の骨とも分からない奴がタイムトラベラーと名乗って近づくなんて、胡散臭いにもほどがあるわ」
「あん? 信用無いのか俺?」


瀬戸は呆れたように溜め息を吐きながら、地面にタバコを落とし、踏みつけた。


「全くよ……。いいか、お前が俺を信じようが信じまいが、ここに来た目的はお前と同じだ。それなら、協力するほうが合理的じゃねえのか?」


分かっている。そんなこと。はじめから。

それでもなぜか、あいつを見ると……なんだか、胃のムカつきのような感覚に襲われる。
仲間として認めるかいないかの問題じゃない。



灰色が私の中に広がっていくみたい。
それは端的に言うなら嫌悪感だった。
《あの男の言うとおりだ。今回の相手はネブラではない。素性も分からない相手であるゆえ、仲間は多ければ多いほどいい》

フェルミはそういうけど……。

「……分かったわ。あなたと協力する」

私はフェルミを降ろした。
ブルボンは礼儀正しく頭を下げ、瀬戸大吾郎は満足そうに、新しいタバコに火を付けていた。

しかし私は

《……ふ。全く貴様は……》

フェルミを強く握ったままだった。
背でなびくマントを翻し、まるで二人がいないかのように、歩調を合わせず前へと進む。
もちろん、不穏な動きをしないように、背後に注意を払った。



―――――――――


僕は清奈に、あることをするよう頼まれた。でもそれは……。

「ねえ、パルス」
《なんですか?》
「清奈の命令さ……無理な気がするんだけど」
《弱音を吐いてはいけません!》

パルスはそう言っても……。

《ユウ、こう考えるのです。セイナが過酷な命令をユウに与える。これはセイナが、成し遂げることができると信じたからです》

「……そっか」
タイムトラベラーになりたての頃、僕は清奈になんて呼ばれただろう。

お荷物、だった。

実際僕の戦闘力は清奈の足もとにも及ばなかったし、僕も戦うのは嫌だった。怖かったから。

それが今では。

僕は清奈に任せられている。失敗したら清奈の命が危ないのに、何の躊躇いもなく僕を信じている。

ならば、四の五の言ってる暇はない。

僕はゆっくりと息を吸って、吐いた。
氷の世界は空気までもが凍てついている。肺に冷気が入り込むその感覚が、集中力を高めてくれている。

目を開き、校舎屋上を覆い被さるドームを見た。

「やってみせるよ、パルス」


その言葉に応えるように、白銀の銃が一瞬、光り輝いた。


―――――――――


私の後ろには瀬戸大吾郎とリリウスことブルボンがいる。

天井には、氷柱が私の頭上を突かんと伸びている。
長い廊下を音もなく歩く。右手の窓ガラスは白く曇り、その機能を失っている。


「ふう。しかしこうも寒いと、耳がかじかんで仕方がねえな」

瀬戸大吾郎が立ち止まったので、私は少し振り向いた。ブルボンもまた、彼の隣で止まった。
口から煙が出ていて、またタバコか、と思ったけど、白い吐息であることに気づいた。
そういえば、私と悠はパルスの力で体が冷えないように護られているが、この二人はどうなのだろうか。

……関係ない。
二人は私とは無関係なのだから、そんな心配する必要ない。

私は立ち止まる二人を無視した。

《いいのか》
「この区域を統括するタイムトラベラーは私。にもかかわらず、番外位とか言って近づく人間を信用しろっていうの? あいつを放っておくのも、消すのも私が決める」
《……やれやれ。また一人で敵地に特攻か。命知らずにも程がある》
「だから、フェルミにも伝えたでしょ? 今回は悠の力を借りるって」
《では……なぜユウを直接ここへ連れてこない?》
「……」


フェルミ。あなたは、私にそうする理由を言えって命令するの……?



「……悠が、危険だからよ。死ぬ、かもしれないじゃない」

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