〜第5章〜


[49]2007年7月20日 夜中4時29分


《転移先の安全が確認された》
《二人とも、よろしいですね?》

パルス、準備は出来てる。

にしてもこれから戦うってのにいったいぜんたい僕の心臓はどうなって

「トリップ開始」



ってうぐぉあああああ!
す、すっごい重力ががが!遊園地にあるフリーフォールなんて比じゃねえぞ!
ぐ、ぐわああ目が、目がーー!

僕の家がねじれ、視界が渦のように曲がる。夜中で未だに日は登らないせいか、見えるのは黒にも紫にも似た混濁の世界。
ただ、清奈は確かに僕の側にいる。清奈の姿だけは、しっかりと捕えられる。


「着いたわ。降りるわよ」

降りるってなに、がっ!!


降りると言うのは、着地するということだったらしい。足からの急な衝撃、おまけに左足をグネって着地した。

「うぼぁっ!」

汚い声をあげて後頭部を地面に強打した。

《馬鹿者。降りると言っただろうが》
《空間転移はユウにとって衝撃が強すぎたのではないでしょうか》
「……みたいね」

いやあそりゃそうでしょう初めて経験したんだからさあ

と、無言で愚痴をいろいろ溢しかけたその時

「うわっ……冷た」

何気に手を置くと、地面が凍っていることに気づいた。
辺りを見回せば、そこは僕の家の前では無かった。
ちゃんと移動できたらしい。それにしてもここは……。

「体育館裏よ」

体育館裏と言えば、漫画の世界では告白する所と相場が決まっているらしいが、この学校では、まれに学校でいわゆる「問題児」がたむろっている、いわば学校の裏の世界だ。
最近は、近くにコンビニが出来たからか、ここは人気が無い。


日の光が当たらないじめじめした空間に、煙草の吸い殻や成人向けの雑誌が無造作に散らばる。荒れた雑草は寒さでたちまちしおれている。

「バトルモード、移行開始」

清奈がそう言った次の瞬間には、黒髪の長い髪に碧眼、そして白銀のマントを纏うあの姿が、凍てついた空間に浮かびあがった。


僕も同様にバトルモードへ移行する。

「フェルミ、今どういう状況?」
《何者かの空間干渉により学校全体が凍結している。だが揺らぎは観測されていない》
《ハレンの気配を察しました。本校舎屋上です》

「揺らぎが無いっていうことは、これはネブラの仕業じゃないのか?」
「そうね。けれどネブラ以外の存在でこれほどの干渉が可能な者は限られているはずだわ」

《……む》


フェルミが何かを察したらしい。
同時に清奈が剣を抜く。

「下よ!」

真っ先に後ろへ飛びあがった。
清奈と僕の間の地面から鋭い氷柱が天を付く!

清奈も後ろに飛び、僕と清奈との距離が開く。

「くそっ!」

氷柱はなおも地から伸びる。先端は刃物のように鋭利で、油断すれば肉体を用意に貫かれるだろう。

僕はがむしゃらにその場を走り回る。
清奈は氷柱の隙間を縫うように動き回り、全ての刺突を回避する。

清奈の脇腹に伸びた氷柱を上手く垂直に飛び上がって回避、空中で後転。
計算しつくしていたように、清奈は氷柱の先端を断つ。
円形の断面が出来上がり、そこに着地した。

「捕まって!」

僕の両サイドの壁から突きだした2本の氷柱を前に走ってやりすごす。大きく上に飛んだ。

清奈の手に向かって僕は手を伸ばし、しっかりと握った。

だがそのままでは

「っ!?」

体育館の屋根の部分から上から下に氷柱が伸びてきた。僕たちに向かって一斉に伸びる無数の槍。

「うおわああああ!?」

僕は空中で清奈と右手を繋いでおり、宙ぶらりんだ。避けれるわけない!
僕は目を瞑ったが――



そこにいるのは僕だけではない。


持ち上げられたフェルミ。彼女の左手が動いたかと思うと、視界にあるだけでも数えきれない程のその氷柱が、全くの無に帰される。
僕の頭上にまでフェルミが引き付けられ、
横薙ぎ一閃。

氷柱は全てフェルミに触れては弾け飛ぶ。
氷柱が砕かれる透明な欠片と、清奈とフェルミが生み出す赤い火花が重なりあう。

全ての槍をフェルミで相殺した清奈が僕の体を持ち上げてもう一度飛びあがる。
今度は僕も上手く着地した。体育館の屋根の上だ。


校舎の屋上を見る。
そこが根源地だと一目で分かった。屋上はドーム上に氷が張っており、そこから無数の氷が水脈のように伸びていた。
姿を隠す意図は、全く無いらしい。

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