本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@
[18]chapter:5-2
「......なんだ?」
周りがやけに静かだ。音一つ聞こえない。
どこかで同じ感覚があったような……。
「痛...!?」
ヴァンは突然激しい頭痛に襲われた。
──なに?どうなってるんだ!?..つ...頭が..確か...兄さんにビルを殺したのかって聞いたあと……聞いたあと………?
あれ…?
ヴァンは何故か記憶が混乱していた。その上頭痛のせいで余計思考を鈍らせていた。
──くそ..!分かんないよ..いったい......!?
ヴァンはそこで周りの状況を見て驚愕した。
──兄さんがいる………ラルさんがいる………
別にそこにいることに驚愕したわけではない。
なんと二人は口を開けたまま身動き一つせず止まっていたのだ。シンは立った状態で、ラルは屈んだ状態で止まっていた。
「え...なんで?どうなってるの?」
二人はまるでよくできた蝋人形のようだ。
「いったい...」
ビチャ...
「え?」
ヴァンが後ろに立ち退くと背中に何かのヌメヌメしたものがぶつかった。ヴァンは恐る恐る後ろを向いた。
「うわぁぁあ!!!」
背後には怪物のシュバイツ大きな口を開けて今にも襲ってきそうな状態で止まっていた。
その口の中から何本もの岩のような牙が覗かせている。どうやらヴァンはこの牙についたシュバイツの唾液に触れたらしい。
ヴァンは必死でその場から離れた。
「あわわわわ...な..なんなんだよもぉ...」
そこでヴァンははっとした。
──この状況...どこかでなかった...?...そんな昔じゃない..大分最近...あ!...今日ラルさんが俺達を訪ねた時だ...!
フッ...
風邪が吹いたような気がした。辺りの空気が動き出す感覚を体が感じ取る。
ガチン!!
突然シュバイツの方から岩と岩が重なるような音がした。
「なんだと!?どうなっている!確かにあいつは...!」
「...!?」
突然のシンの声にヴァンは驚いた。辺りの静けさはもうなく先ほどの空間がここにある。
──あれ...?
「ハァ…ハァ…」
ヴァンは今度は突然の疲労感に襲われた。呼吸が大きくなる。
「なに!?なんであんな場所に...避けたのか...?」
シンは何故かこちらを見て驚愕している。
ヴァンは剣で体を支えた。
──いったい...どうなってるんだよ...
「いったいどうなってる!?」
──それは...僕が聞きだいよ...
ヴァンの体には激しい疲労感と脱力感が襲っていた。それも剣を支えにしないと立てないほどであった。
「...ちっ..シュバイツ..迫撃砲だ」
シンがそう言うとシュバイツの口元が光り出した。
「...!..ヤバい...逃げろヴァンくん!!」
「え...?」
突然辺りが光に包まれた。
「眩...!?」
ドゴォォォォン!!
光と同時に爆発音が森に鳴り響いた。
ヴァンは衝撃で宙に吹っ飛ばされた。
──な...!..うッ...そ...このままじゃ地面..
「叩きつけさせねぇぞ...」
「え!?」
なんとシンも同じ高さまで飛びヴァンの体を抱え込んだ。
そしてそのまま地面へと急降下した。
ドゴッ!
「ハグゥア...!」
着地の衝撃がヴァンの体を襲う。
度重なるシュバイツとシンの攻撃に加え、突然襲った疲労によりヴァンの体はもうボロボロだった。
「いきなりは終わらせねぇ...ジワジワと痛みつけてやる...」
シンはニヤッと笑うとヴァンの首を掴んで空(くう)にかかげた。
「かッ...は...もう...や..やべ...て...」
ヴァンの目に涙が浮かぶ。
「夜はなげぇんだ...まだ死ぬなよ...」
ドン!
「あぁん?」
ラルが不意をつき後ろから拳を浴びせた。
しかしもう体力の尽きているラルの力は無きに等しかった。
「なんだ...これ?」
「く...そ...」
シンはラルに回し蹴りを食らわせる。
「グッ...!!」
「..!?..ラ..ラグ...ざん...!」
「あーあ...なんか興醒めだ...」
シンはそう言うとヴァンの首を離した。
「カハッ...!..ゲホゲホゲホ...!!」
「もう飽きた...もう殺すわ」
「は...!..ウググググ...」
「うるせぇよ」
「がッ...!」
シンはヴァンの顔を蹴り上げた。
「さて...そろそろ指輪をよこしな」
「..いぐ...ゆ..指輪...?」
「てめぇのしてる指輪だよ!!」
シンはヴァンの右手首を握り上げ顔の前へと持ってきた。
「これが...なんで...」
「知らねーよ...だが俺が『ウロボロス』に入るにはお前の指輪が必要なんだよ」
「ウ..ウロ...?」
「ウロボロスだと!?」
ラルが突然声をはりあげた。
「貴様!!ウロボロスの一味だったのか...!!」
シンはラルの方を向きニヤッとした。
「死人に口無し...死人は語る術を知らず...だぜ?」
シンは左手を振り上げた。
「く..くそ...!」
ラルはどうにか体を動かそうとしたが動けない。
「さよならだ、ヴァン」
「..う..うぐ...僕は...兄さんをずっと信じてた...」
「お前だけだ」
「ぼ...僕には..兄ざんじがいながっだがら...」
ヴァンはほとんど泣きじゃくっていた。
「ぁーあー汚ねーなー。お前はここで死ぬんだよ」
「し...死ぬ...」
死の恐怖。ヴァンの体がその恐怖で埋め尽くされる。
「し..死に..し死にたく...ない...」
「無理だ。お前を殺してあいつも殺す。そしてお前の指輪を奪う。それが俺がウロボロスに入れる条件なんだ」
「...う..う...」
「お前を殺すことはもう8年前のあの日から決まってたんだよ。
そして俺はお前がその時持っていた赤い宝石を無くさないように指輪にしろと『ウロボロス』から命令されその通りにした。
その後着々と準備は進んだ。そしてついに...!..今夜儀式が完成したことによりお前を今夜殺害する計画がうたれたんだ!!」
ヴァンはもう意気消沈だった。ただ心に残るのは「死」への恐怖だけ。
ヴァンは体中から震え上がった。
「怖いか?こえーよなー死ぬのは。だが安心しろ...最後は一瞬で葬りさってやるよ!!」
──呼ぶか……?
「ヴァンくん!!」
──呼べよ……
「お前との8年間...結構...反吐が出たぜ!!カカカカカカ!!!」
シンは左腕を目にも見えぬ速さで振り下ろした。
「君は誰?」
『僕は君さ』
「ここはどこ?」
『ここは君さ』
「なんでいるの?」
『君が…呼んだから…』
「僕が…?」
『言ったろ?君は結局僕を呼ぶことになるって』
ギィン!!!
「!!?」
ヴァンは剣を上にあげシンの悪魔の左腕を防いだ。
「こいつ...まだ力が...!」
「...あるに決まってるじゃん...」
「...!?」
ヴァンはそのまま力ずくでシンを前へと押してぶっ飛ばした。
「なんだと...!?」
「...ハハハハハハ...アハ..アハ..アハハハハハ...」
ヴァンは左手を額にのせ不気味な笑い声をあげた。
「お..お前...いったい!」
「殺戮ショーの...始まりだ…!」
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