第34章
[11]
狐は俺の後ろの者達を見渡して、再び俺に目を戻した。意図を理解し、俺はミミロップ達に下がるように言う。
続けて狐が、ゲンガー達に、ミミロップ達を適当な空いている部屋に通すよう命じた。
文句を喚き散らして動こうとしないゴースト達を、狐は欝陶しげに見つめて尾の一本をざわつかせてみせる。
途端にゴースト達は竦み上がり、ミミロップ達を連れてすごすごと出ていった。
「ようやく落ち着いて話せる」
ただならぬ気配と、伝わってくる底知れない力に、この狐が神族――ギラティナの化身であることはすぐにわかった。
「アブソルは?」
一拍の間を置いた後、ギラティナは口を開く。
「結論から言えば、治療は可能だ」
ギラティナの答えに俺は胸をなでおろす。だが、まだ言葉には続きがあった。
「ただし、条件がある」
怪訝に思い俺はその条件を聞き返す。
「白金の宝玉が必要なのだ。それが無くば我が力を自在に行使することは無理だ。衰弱は止められても完治
させることはできないということだ。ここへ来る途中、我が神体は見たか?」
道中で見た龍の姿を思い出し、俺は頷いた。
「あの世界と、普段お前達が生きるべき世界は表裏一体。どちらかの世界に何らかの欠損が生じれば、すぐ
に片方の世界が傷を埋めて均整を保っている。均整が崩れれば互いの崩壊を招くのだ。ここは二つ世界の狭間。
私は傾きを計り、時に正す言わば天秤のような役割をしている。多少の自己修復能力はあるため私が直接
手を下すことは極稀ではあったが、今は状況が変わっている。お前が見たものは私の神体に間違いはない。
私自身――魂とでも言おうか――が離れた後も、自律し、半機械的に世界の管理を行なっている。主神無き
不安定な情勢の中、何とか繕ってはいたが遂に大きなほころびが生じたのだ。本来ならば転生の時ではない
幾つかの魂が隙間から漏れ出し、お前達の世界に生まれ落ちた。我が神体は怒りに狂い、もはや私だけが持
つ力では抑えが効かぬ。魂の無い神体は理性無き獣と同じ。その内に漏れだした魂を求めてお前達の世界へ
と抜け出し、大きな騒動を巻き起こすことだろう」
あまりに不吉な話に顔が引きつり、俺は言葉を失った。
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