第30章
[16]
閉ざされていたシャッターの先は、再び長い通路となっていた。通路の向こうには部屋らしき区切られ
た空間と、また左へと続く角がある。
この屋敷の本性を知り、目的は探索から脱出へと変わった。しかし、未だ光明は見出だせない。行く手
を阻んできた数々のシャッター仕掛けは外からの侵入者を防ぐ為だけではなく、内の逃亡者に備えられて
いた物だとすれば、脱出口が存在する可能性はゼロに等しいのではないか。
だが、ピジョン達と連絡する手段は無く、救助は期待できない。そして、安全にとどまれる場所など存
在しない。
進むしかなかった。藻掻けば藻掻くほど身に絡む蜘蛛の巣の上だとしても。
冷徹な人工の照明だけが、化け物潜む牢獄を弱々しく途切れながらも照らしている。
「お気付きですか」
暗澹とした道に並んで足音を立てる中、ロゼリアが目だけをこちらへよこし、そう口を開いた。
「ああ。三匹――いや、四匹といったところか」
部屋を出てからというもの、俺達の後をつける幾つかの気配を感じている。先の二匹のようにすぐに襲
い掛かってこないことを訝しく思いながらも、へたに迎え撃ってもすぐに再生され、こちらが疲弊するだ
けだと注意だけは払いつつもずっと無視していた。
「もっと居るわ。五、六匹――」
「……もっともっと最悪ですよ。前、見えてますか」
前方の曲がり角から三匹、小型の犬型ポケモン――ガーディが姿を現す。本来は赤い筈の毛並みは所々
白くなっている。眼に正気の色は無く、こちらの姿を確認するやいなや先頭の一匹が狂喜じみた遠吠えを
上げた。じわじわと付かず離れず迫っていた背後からの足音が、それを合図に駆け足へと代わり、瞬く間
にガーディの群れが俺達を取り囲んだ。
「全部で九匹……降参の旗でも上げる?」
「こいつらの捕虜収容所は恐らく胃の中だ。それでもいいのならば好きにしろ」
最悪の状況だ。
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