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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[24]２月６日(沖田)

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江戸城に住む将軍様は、四人兄妹であらせられる。

将軍様を筆頭に、華蓮さんと見合いをした事のある二男、高飛車で有名な長女・みよ姫、そして歳の離れた二女・そよ姫である。

その長女・みよ姫が、城下で買い物をしたいと言い出した。

しかし一般人の俺達とは違い、気軽にショッピングという訳にはいかないお姫様である。

当然真選組に警護のお達しが下った。

その連絡を受けた近藤さんの顔は、みるみる血色を失っていった。

何故なら、みよ姫の口の悪さは天下一品であり、以前に警護にあたった事のある近藤さんもコテンパンにのされて帰って来たからだ。

｢どうしよう、どうしよう…

あの姫と対等にやれる人間、うちにいたっけ!?｣

・―・―・―・―・―・

｢本日みよ様の警護の役を仰せつかった、真選組女子隊隊長・坂田華蓮でございます。

以下、一番隊隊長・沖田と共に一日お伴させていただきます。｣

結局メンタル面の強さを買われ、俺と華蓮さんが選ばれた。

黒塗りの大きな車の後部座席に乗っているみよ姫は、ご挨拶する華蓮さんを頭のてっぺんから足の先まで舐めるように見たかと思うと、早速毒を吐いた。

｢元大江戸小町でブランドに詳しい女というからどんなのが来るかと思えば…ゴミみたいなプレタポルテを身に着けておるだけじゃのぉ。｣

｢!!!｣

いきなり初対面で先制パンチを喰らわされ、さすがの華蓮さんもカッチンきたようだ。

しかしそこは大人。

近藤さんからも念を押されたように、一時の感情にまかせて手出ししたりはしない。

まずは銀座の四越デパートへ向かった。

きれいに磨いてある回転ドアを回し店内に入ると、店員がズラリと並び、我々を出迎えた。

今日はみよ姫の為に全館臨時休業にし、貸し切りにしたそうだ。

さすがにセレブはやる事が違いやすねィ。

エレベーターで七階に昇り、【絵留芽巣】に入った。

俺はブランド物には疎いが、これは名前だけなら知っている。

｢二年前にオーダーしたバッグが、ようやく出来上がったのじゃ。

ホホホ…｣

みよ姫はプレタの華蓮さんを前に、これ見よがしに店員から受け取った。

【絵留芽巣カラー】と呼ばれるオレンジ色の箱から取り出されたのは、まず一般人ではあり得ないようなド派手なピンクのキャンバス地で出来た、トートバッグだった。

｢さすがみよ姫、センスがよろしいですわ！｣

｢私達には使いこなせない色使いでございます!!｣

店員のお世辞を真に受けて、みよ姫は得意満面だ。

肩にかけたり中身を見たりと嬉しそうにしている。

しかし一人店内で腕組みをし、憮然として立っている人物があった。

華蓮さんだ。

彼女はみよ姫の取り巻きを後ろから眺めていたが、あまりの皆の褒め称えようにイライラがつのり、ついに【必殺オシャレ通ミサイル】を繰り出してしまった。

｢そのトートって、[胴比留シリーズ]ですよね。

二年前には大流行でオシャレアイテムでしたけど、今はみんなエコバッグにしてネギやら豆腐やら突っ込んでますよ。

しかもその色、いつまでバブル期引きずってんの？みたいでレアですよね、ある意味。｣

バッチリ的を得ている発言に、みよ姫以下、お付きの方々も店員さんも、みんな黙って下を向いてしまった。

さっきの仕返しとばかりに、華蓮さんはしてやったり顔だ。

四越デパートを後にし、次に入ったのは老舗の果物店【線引屋】だった。

｢よく宮崎の東まんま知事からマンゴーが届くが、今日はメロンが食べたいのぅ。

もちろん夕張じゃ。｣

そう言うとみよ姫はチラリと華蓮さんを見て、これまた上から高飛車発言を投げかけた。

｢そなたらも召し上がるが良い。

真選組レベルではそうそうお目にかかれない代物じゃろうから、じっくり味わうが良いぞ。｣

ヤバイ。

そんな挑発したら、また華蓮さんがミサイルを放つ。

実を言うと、今日の俺はみよ姫の警護と同時に、華蓮さんのストッパー役も担っているのだ。

｢大丈夫ですゼィ、華蓮さん。

夕張メロンくらい俺がいくらでも買って帰りやすから…｣

慌ててなだめようとすると、彼女は懐からおもむろに何かを取り出した。

あっ！アレは…

うちの常備食[真選組ソーセージ]だ!!

奥歯で赤いビニールを噛みちぎり、プッと地面に吐き捨て、プラプラと左右に揺らしながら、彼女は言った。

｢結構です。

夕張メロンはまたいつかどっかで食えるでしょうけど、私は真選組隊士しか食えない限定ソーセージ食っときますから。

どーぞ心置き無く、どこにでも売ってるメロンを召し上がってくださいな。｣

そして彼女はニヤリと笑い、ソーセージをかじった。

あれれ？普通どー考えても夕張メロンの勝ちなのに、心なしかみよ姫が悔しそうですねィ…。

お昼は【赤坂王子様ホテル】に予約が取ってあるとの事で、一行はゾロゾロとそちらへ向かった。

｢さぁ皆の者、召し上がれ。

今日はイタリアンじゃ。｣

そう言ったみよ姫は、またチラリと華蓮さんを見た。

やはりかなり意識しているらしい。

しかしそんなものは全く無視し、華蓮さんは食前酒を口に運んだ。

前菜には[有機野菜サラダのキャビア乗せ]がやって来た。

これがキャビアか。

黒光りした艶感が高級である事をうかがわせる。

初めての味わいに、情けなくも感動している俺。

次にパスタが運ばれて来た。

魚介類がふんだんに盛られたそれは、このような高級店にしては珍しく大盛りだ。

｢これはわらわの大好きな魚介のナポリタンじゃ。

本来メニューには無いのじゃが、特別に作らせた。｣

またみよ姫は自慢げに華蓮さんに挑んで来た。

頼むから彼女を刺激しないでくだせェ。

俺の仕事が増えまさァ…。

すると案の定、うちの天然危険物に火が点いた。

フォークをガシャンと置いた華蓮さんは腕組みして、椅子の背にもたれ掛かった。

｢そりゃあメニューに無いでしょうよ。

だってナポリタンは日本人が作り出したものであって、イタリア料理ではないもの。｣

出た！[もの知り華蓮の豆知識]!!

あ～ぁ、もう俺知～らねっと…。

ワナワナと震えるみよ姫とワタワタと慌てふためいている家来達を前に、華蓮さんは演説を続けた。

｢そんな事も知らずによくこんな高級店に来れたもんだわね。

だいたいそんだけ家来はべらしてんだから、その程度の知識を持ち合わせた奴くらいいるでしょーが！

あんたらお付きの者が教えてやんないから、ほら見なさい、みよ姫が社会性の無い人になるんでしょ。

あのピンクのバッグだって、無責任に褒めたりするから恥かいてる事も知らずに有頂天になるの。

夕張メロンだって、『それが全てではない。もっと色々美味しいものを、みんなで仲良く食べるんだ』って教えてやんないからああいう物の言い方しか出来ない。

本当にみよ姫を慕うのなら、恥をかかせないよう教育するのがあんたら城のお偉いサンの役目なんじゃないの!?｣

………

…やっちまいやしたねィ。

華蓮さんが正しい事を言っているのは皆さん百も承知だ。

しかし姫に無礼をはたらいたとなれば、やはりそれなりの処分が下されるのでは…

滞った空気を打破するかのように、みよ姫が椅子から立ち上がった。

そしてツカツカと華蓮さんに歩み寄り、腕組みしたままの彼女に言った。

｢坂田。

そちに命ずる。

これよりもう一度【絵留芽巣】へ行き、わらわが恥をかかぬよう、流行のバッグを選べ。｣

華蓮さんはニヤリと笑い、自分の【絵留芽巣】のバッグを掴み、椅子から立ち上がった。

｢やっぱ今年はクラッチバッグでしょう。｣

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