〜第5章〜


[55]2007年7月20日 夜中4時40分


「らしくねえな長峰さんよ。一人立ち止まって考え事か? 緊張感ねえな」

瀬戸大吾郎は、思わず私がそのセリフをそっくりそのまま奴へ言おうかと思った
ほど、緊張感のない間の抜けた声をあげた。

「なら、そのスパスパ吸ってるタバコをやめなさい。煙を嗅いだだけで反吐がでるわ」
「はあ……なるほどな。日常生活に支障をきたすレベルだ。お前の人間嫌いな性格は」
「ま、マスター!」

ブルボンが慌てた様子で止めに入る。

「なんてこと言うんですか! 彼女はタイムトラベラーの中でも最高位の実力を持つ----」
「蓬莱珠玉の雷……使いだろう?」

それがどうした、と目が語っている。

「ああ、いいよいいよそんなに俺のことが信頼できなきゃ、それでよ。俺はお前の意見にチャチャ入れたりしねえ。お前の好きなようにやんな」

瀬戸はそう私に言った。

「そうよ。あなたは黙ってついてきなさい」

私は二人を置き、さらに前へと進んだ。


―――――――――


僕はパルスの魔力を自分の体に流していた。精神を集中させて、手先足先までくまなく満たす。
普段の僕は自分の体がどうなっているかなんて、分からない。
でも今は、分かる。
血の流れさえもはっきりと感じ取れる。

「すう……ふう」

深呼吸して、さらに精神を一にする。

《ユウ。調子はどうですか》
「大丈夫。今はまだ、話しかけないでくれ」
《失礼しました。では……》

こうしているのも理由がある。
それは、清奈が僕に、こんなことを命令したからだ。


僕の目の前にある、半透明のドーム。これを壊すことが、僕の役目だ。
それも、中にいる清奈達を巻き添えにしないように、力を加減して。
途方もなく難しい問題だった。僕はまだ、パルスの力を制御するには至っていない。
清奈はどうやって、フェルミの力を制御できるようになったんだろう。

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そのドームの中……。
ハレンは氷の中に閉じこめられていた。瞳を固く閉ざしたままで。
白猫の甘い声が、冷えた均一な空間にアクセントを利かせた。


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