〜第5章〜


[34]朝7時00分


「お前ねぇ……!」

あはは。
昨日「目を合わせているだけで幸せ」って僕思ったんだけどね。人間って不思議だなあ……。

僕はまさしく、清奈に覆い被さっていた。

「うごっ!!?」

僕は
思いっきり
蹴られた。
どこを?
急所を。
涙が出そう。

清奈は
うわ
僕がかつて見たこともない程の怒り様だぞ……?

いやこれはね事故なんだよ事故。そりゃあやましい気持があったからね。でも……あれ?
やましい気持があったから反論できないや、あはははは……。

「そうなんだ……」

え?

清奈は
あの
冷酷な目を浮かべた。

「しょせんお前は
私じゃなくて、私の体が好きなだけだったのね」

えっ……
そんなことな……

清奈は僕に何も言わせないほどの剣幕で勢いよく立ち上がった。

「ちょっとま……」
「うるさい! 寄るな! 汚らわしい!」

ぷいと後ろを向いて、そのまま部屋を出る。
僕が入る余地などどこにも無さそうだった。

乱暴にドアを開けて、蹴ったかのようにドアを閉めた。


どうしよう……。

――――――――――――

最低。
その2文字が頭の中でグルグル回る。
悠って……そういう人だったの?
やっぱり他人を信じるじゃなかった――

と、思うつもりだったのだが、どこかで否定している自分もいる。


なに否定してるのかしらね?
あいつは下道と呼んでもいいところ。
これ以上近くに寄り添う必要なんてな……。






















変だ。
私は、思ったほど怒っていない。激情に身を任せて家を飛び出すとか蹴り殺すとか考えるんじゃないかって思ったけれど。
確かに悠のやったことは最低なことだ。許すことを考える余地なんかない。
でも……なんで?
私は……一度

犯された

身なの

に。








あの忌々しい記憶。
私はあの日、奪われたのは仲間だけじゃない。
私の証を
私が
純白でいられる為の証を奪った。

仲間を信じられないのは、そういうこともあったから。
だから
でも
どうして?
信じて?


許さないことを許すの?
許せないことが許せるようになったの?
沸くのは結論ではなく疑問ばかり。

「清奈!」

背後から悠の声が聞こえた。

「ほんっとにごめん! 許してくれないと思うけど、マジで、この通り」


後ろをチラッと見てみる。土下座?
みっともないわね。
すぐに私は視線を戻した。
「許してくれないって分かってるんじゃない。何しようが無駄よ」
「でも……」
「お前なんか知らない」
「ううっ……」

情けない弱音のような言葉を漏らしたのを聞いた。

本当は、そんなに怒ってない。
嬉しいなんて未塵も思ってないけど。
私は悠のことになると、いつもハッキリした感情になってくれない。

私はまだ何か言っている悠を置いてリビングに行き、中途半端に開いたカーテンの隙間から曇り空を眺めていた。






――――――――――――

ごめんなさいごめんなさい悪いことだとは思ってたんだよそれでも僕はほら、清奈ってかわいいじゃん悪戯したくなる気持ちもわからないかなぁ?分かるわけない?いやでもそう思っちゃうもんなんだよこれからは神様仏様に誓ってしないから今回だけは本当にごめんなさいごめんなさいってあれ?

悲しきかな、当人の姿は無く僕の懺悔の言葉を受けとる人は不在だった。僕は真っ白な壁に向かって頭を下げていたわけだ。
これ何て自虐?
今、ちょっと死にたくなった。

「せめて最後まで話を聞いてくれよ……」

こりゃあやばいぞ。

清奈とはかれこれ4ヶ月弱の仲だが、清奈があそこまで非情になってるところを(いや非情にしたのは僕だけど)僕は知らない。








そして
その日、清奈の僕に対する態度も酷かったよええ、そりゃあもう!

絵夢は起こしてくれたが今日、清奈と全く会話していない。話しかければ無視は序の口、登校時の手を繋ぐのも当然してくれない。それどころか手を差し出したら足をおもいっきり踏まれた。
このままだと引っ越しして1日でまた元の住居に退去しかねない。冗談ではない。行動力に優れた清奈ならむしろ現実になる可能性のほうが高い。
とにもかくにもうかつだった。
僕は清奈と
【あの】清奈と仲良くなれたのに。
そもそも僕みたいな奴が、清純潔白純粋無垢の清奈と仲良くなること自体、奇跡だったのだ。
なのに僕はバカなことをした。
バカでアホでマヌケでトンマだ。
時を渡れるんだから、今すぐ今朝の時間に戻って、調子乗ってる僕に一発殴りたいね。

「おい悠にぃ!!」

ハッと気づくと目の前にふっくんがいた。
あんなことがあったので僕はずっと上の空だったようだ。何の授業を受けていたか、学校に着いていたことさえ覚えていない。


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