本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@
[13]chapter:4 兄弟の絆
「シ…シン…?貴様は..いったい..!!」
「なんだよ?俺だよ。シリウスに決まってんだろ?ただ…名前は今から『シン』に変えさせてもらうがな」
シンは笑みを止めない。
「シ…シリウスさん…いや…シン!」
「あんたさっき『やはり』って言ったな?...いつから気づいてた?」
「ググッ…今日あの家に入って..貴様のデスクで血玉髄(けつぎょくずい)を見た時からだ...!!」
ギィン!!
ラルはシンの剣をはねのけ後ろに跳んだ。
それと同時にシンも怪物の方へと跳んだ。
「カカカカ!ほとんど最初からじゃねぇか!」
ラルは剣を地面に刺して体を支えた。
「ハァ…ハァ…別に全てに気づいていた訳じゃないさ…。血玉髄は緑色のエメラルドに似たプラズマに血のような色が混ざった赤色をしている...それを貴様のデスクの上で見つけた...!
ハァ…ハァ…貴様は宝飾の仕事をしているから別にあってもおかしいことでもないが...だが、何故か血玉髄だけが他の鉱石には見られない荒いけずり痕があった...!
その瞬間から私は貴様への警戒を怠らなかった...」
「なるほど...俺もいきなりユスティティアが来るとは思ってなかったからな...うかつだったよ...ククク...」
「うかつ...?…ふふ…貴様はホントにマヌケだ...!」
「なに?」
「ハァ…さっき貴様を逃がす前に貴様はなんて言ったと思う?『あなたはその剣をちゃんと扱えるのか?』と言ったんだ」
「それがどうした?」
「なんで知っているんだ?この『断罪の剣』が…私にとっては重いということを…?」
「……!」
「これを知っているのは、『ユスティティア』と…軍の上層部と一部だけだ……ハァ…ハァ…さぁ…なんで貴様が知っている?」
シンは怪物の首筋を撫でた。
怪物はまるで犬のように頭をたれた。
「ちっ...さすがってとこか...。キラの言うとおりお前らは甘くみない方がいいみたいだな...」
シンは手に持った剣を地面に刺した。
「でも残念」
「なに!?」
「もう儀式は完成してんだよ!!」
突然シンの周りの地面が光だした。
「し..しまった!!」
ラルはシンに向かって駆け出した。
「行け!!」
「グルゥア!!!」
シンに命令された怪物はラルに襲いかかった。
ラルは避けきれず、怪物に覆い被された。
「まだ殺すなぁあ!!」
ラルはなんとか怪物の前足に剣を当てて爪を防いだ。
「貴様…ハァ…ハァ…まさか…!」
「血玉髄を見て警戒したんなら、俺が今からやることは分かってるんだろ?」
シンの周りの光がさらに輝きを増す。
シンは地面に刺された剣の刃に指を当て、血を滴らせた。
「ぐぐッ...させんぞ...!!...ユスティティアの名にかけて!!」
「グルラ…!!?」
ラルは剣を前に押し出し怪物体を浮き上がらせた。
「あの野郎...女のくせになんて力してやがんだ...!...だが..もう遅い!」
シンは右手の指を刃に当てながら、左手でふところから血玉髄を取り出し剣の柄に文字を書き始めた。
「δΩξΦΨ...шЮФΩεμб...」
シンは目を閉じ、呪文のようなものを唱え始めた。光の渦がシンの周りをまわっている。
それと同時に空の月が雲で隠され暗雲が立ち込めた。
暗雲は徐々に折り重なりゴロゴロと音をたて雷雲へと姿を変えていく。
「く..くそぉ..どけぇ...!」
「グルルルル!!!」
ラルは剣に渾身の力を込めたが、怪物も力をあげびくともしない。
「ΩшбδФδЮΣΘ......来る...来るぞ...!!!」
ピシャァァアァァァアアァアァン!!
雷雲から雷鳴が轟きシンのもとへと落ちた。
光の渦は黒の煙へとうつりかわりシンの周りを覆い尽くしている。
空の雷雲は徐々に消えまた月が現れた。
「もういいぞ...」
煙の中からシンの声がした。
それと同時に怪物はラルから身をはなし、後ろへと跳んだ。
ラルはよろめきながら身を起こした。
「ハァ…ハァ…く..そ...」
シンの周りの煙が徐々にはれ、その姿があらわになった。
「メフィストフェレス...召還の儀式...成功だ...!」
煙の中からは大きな馬車が現れた。
しかし手綱にひかれているのは馬ではない。
いや、馬の形はしているが、その漆黒の体からはコウモリのような羽がはえている。
だがその姿はペガサスとは呼べない。
なぜかと言うとその顔は龍のような顔をしていたからだ。
馬車にはその奇妙な馬が2頭ひかれていた。
「あああ...メ…メフィストフェレス…!下級悪魔か...!」
ラルは震え上がった。
だがそれは体の疲労と痛みからではなかった。
「グルルルル…!!」
シンの隣の怪物は威嚇するように唸っていた。
「おい、落ち着け!」とシン。
「さて...メフィストフェレス...俺の声は理解できるか?」
馬車の上はまだ煙が立ち込めており誰が乗っているかは分からなく、黒い影だけが見えた。
「...ぁぁ..聞こえている..お前か..私を呼んだのは...」
煙の中からはしわがれた老人のような声がした。
影の頭の部分には二つの光が見える。多分その声の主の目であろう。
「そうだメフィストフェレス...契約内容はもう分かっているんだろ?」
「...ククク...今日の人間はだいぶ口が悪いな...悪魔に恐怖はないのか...?」
「ない」
シンの顔からはホントに少しの恐怖も見られなかった。
「ククク...面白い...しかし契約内容を理解しているのかというセリフはこっちのセリフだ...?..代償は...分かってるな...?」
「...ああ」
「くっ...させぬ!」
ラルは剣を構えた。
「うぉおい゙!!」
「!」
「もう儀式ははじまってる...それを邪魔した奴はどうなるかぐらいユスティティアなら知ってんだろ?」
「く...そ...」
「よし...契約執行だ...」
シンはそう言うと左手を馬車の方へ差し出した。
すると不思議なことに、シンの左手を覆うように煙が集まっていった。
「グッ...!」
ここで初めてシンは顔を歪め、苦悶の表情をだした。
「ゥ...うぅ..うぉおぉぉおぉぉぉぉ...!!!」
「愚かな人間よ...その代償の代わりにくれてやる...」
煙の中の何かがそう言うと辺りは光に包まれた。
静かな時間が流れた。
ラルはそう感じた。
だが、その感覚は一瞬のものでしかなかった。
ゴォォ!
「..ッ!」
突然の風。
そして体への衝撃。
断末魔の声すら響くことなく、ラルは後ろへと吹っ飛び木に叩きつけられた。
「がッ...はッ...」
ラルは吐血しその場で前のめりに倒れこんでしまった。
ラルは体を起こそうとしたが胸の辺りの激痛がそれを邪魔した。
それでもなんとか顔だけは前に向けた。
「...ククク...クククク..アァーッハッハッハッハッハッハッ!!...イイ...いいぞぉ...力が溢れてくる...」
ラルの目の前にはシンがいた。
シリウスの顔には似つかわしくない、さっきと同じ薄気味悪い笑みを浮かべている。
たが、ただ一つ。その左腕だけは異形のものと化していた。
黒く鮮やかな色。とても人間の腕とは思えない。
まるで血が流れていないようだ。
そしてその左腕の手の甲から左肩にかけて波のようにめぐる光る模様。
シンはその左腕をまるで神を拝めるかのごとく見つめた。
「貴様...それが...カハッ..ハァ…ハァ…契約..内容か...」
「ククク...随分と苦しそうだな...痛いか?..ククク...そりゃそうだろう...悪魔の手に殴られたんだからな...!」
「あ..悪魔の手...」
「そうさ...俺はメフィストフェレスからある『代償』と引き換えにこの『悪魔の左腕』を受け取ったのさ...」
「ハァ…ハァ…貴様...それは...人の..踏み入れてはならない『領域』...だぞ..」
「ああ...これは『禁忌』だな」
ラルは目を閉じ神経を集中させた。
──神経を研ぎ澄ませ...さっきよりも...もっと..もっと深く..!
「ぅぐぐぐぐぐ...」
「おいおい...その傷でまだ動けんのか...?」
「禁忌を犯したものを目の前にして...ユスティティアである私が倒れてるわけにはいかぬ...!」
ラルは歯を食いしばり、剣を握った。
「行くぞ!!」
「ふん...その体で...どっちが化け物か分からねぇな...でももう..終わりだよ!!」
「兄さん!!」
「!!」
「!」
「ヴァ…ヴァン...」
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