暴走堕天使エンジェルキャリアー


[44]音の教戒 後編


「ガブリエル収容したらコクピットハッチ開いて!衛生兵は担架の準備!」
非常ドックでは長門が指示を出している。コクピットから降ろされた九十九には外傷こそ無いものの、未だ意識は戻っていない。
「一尉…一尉抜きで勝てるのか?」

「どーすりゃいいってのよ!?」
地上ではラファエルとBEASTの戦闘が続いている。と云っても、BEASTの悲鳴を避けるのが精一杯で、ラファエルの不利にかわりはなかった。
「きゃっ!?」
崩落した地面に足を取られ、ラファエルは豪快に倒れ込む。その瞬間を見逃さず、BEASTは悲鳴をあげる。
「マズい!」
彩夏は咄嗟に左手を突き出す。すると悲鳴はシャイニングフィンガーに弾かれ、ラファエルは直撃を免れる。
「…イケるじゃない!」
彩夏は語尾にハートマークを付けながらニヤリと笑う。そしてラファエルは勢いよく地を蹴り、BEASTに突貫する。
「水無月二尉!単独専行は…」
「大丈夫、大丈夫!」
ラファエルは飛び上がり、BEAST目掛け滑空する。するとBEASTはジュニアを前面に結集し口を開く。
BEASTとジュニアが悲鳴を発する。それを見たラファエルは左手を前に伸ばし、シャイニングフィンガーを繰り出す。
シャイニングフィンガーは悲鳴の歪みを切り裂き、一体のジュニアの頭を鷲掴みにする。
「お・か・え・し!」
ジュニアがシャイニングフィンガーに握り潰される。BEASTは奇声をあげ仰け反る。
ラファエルはそのまま左手を真一文字に振り払い、全てのジュニアを切り裂いた。BEASTは衝撃波を放ち、その反動を利用してラファエルと距離をとる。
「逃げようったって!」
ラファエルが地を蹴ろうとしたとき、その身体にしがみつき、行動を邪魔する者がいた。彩夏が振り返ると、薙ぎ倒した筈のジュニア数体が見えた。
ジュニア達は口を開く。それに合わせ、BEASTも大きく口を開く。ラファエルの左腕は動かせない。
「っ!?」

ドン。

ラファエルに衝撃が届かない。目を開けた彩夏の目の前には、三次曲線に黄色いい肌を纏った人形━エンジェルキャリアーの姿があった。
神々しく輝くその躯体に、モニターしていた者総てが目を奪われていた。
「つーくん…じゃない…」
「あんなもの…見たこともない…」
彩夏と小笠原は絶句する。

黄色いエンジェルキャリアーは瞳を赤く輝かせ、獣のような咆哮をあげる。その咆哮は地を揺らし、空間を歪ませながらBEASTを薙ぎ倒す。
黄色いエンジェルキャリアーの咆哮に、BEASTは身を捩じらせ空間の歪みに消えていった。ラファエルにしがみついたジュニアも、奇声を上げながら消えていった。
「咆哮だけでBEASTを…」
彩夏はそうつぶやき、ただ黄色いエンジェルキャリアーを見上げている。そして事態を見届けた小笠原が、黄色いエンジェルキャリアーにオープンチャンネルで通信を開く。
「援護は感謝する。だがお前は何者だ?その機体はどうやって手に入れた?」
沈黙が耳を刺す。そして小笠原の再度の通信に、パイロットが応える。
「私だよ、三佐。」
「な、そのお声は…」
「山本統合幕僚長…?」
山本は顔を上げ口角を吊り上げる。
「そうだ。山本五十六だ!」

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.