☆幕末人と暮らす方法☆【完結】
[07]【第7話】年越し
大晦日のお寺は、年越しの参拝客で賑わっていた。
除夜の鐘が鳴り響く境内で、私はそっと手を合わせた。
来年も、再来年も、ずっとずっと、彼と一緒にいられますように…
顔を上げると、同伴していた彼はまだ手を合わせ、祈っていた。
何をそんなに真剣に祈っているのだろう。
『この生活に早く慣れますように』かしら。
それとも『元の世界へ帰らせて』かな。
いずれにしろ、私と一生を共にしようなどとは毛ほども思っちゃいないのだろう。
「…おぉ、すまない。待たせたな。
行こう。」
顔を上げた彼は小慣れた手つきで私の肩に触れ、向きを換えるよう促した。
花街での立ち居振る舞いを思わせるその行為に、私はいささかの淋しさを覚えた。
他の女にもこれくらいの事はしてきたんだろうな。
そしてこれからも私には何の感情も芽生える事なく、いつの間にか他の女のところへ行って、こんな事しちゃってるんだろうな…。
「お前は?」
進行方向を向いたまま、彼が尋ねた。
「お前は何を祈った?」
「わ、私?私は…」
言えなかった。
『ずっと一緒にいたい』なんて言えなかった。
毎日同じベッドで眠る私を抱こうともしない彼に、どうしてそんな熱い想いを告げられようか。
口ごもる私を遮るように、彼は言った。
「俺は『ずっとここにいたい』と祈った。」
彼は足を止め、私の方へ向き直った。
「『牡丹とずっと一緒にいたい』と祈った。」
冬の突き刺すような寒風の中、私はどんどんと身体中が熱くなっていくのを感じた。
「お前はどうなんだ、牡丹。」
硬直する私に、彼は再度語りかけた。
しかし私にはそれを素直に受け入れられるだけの自信は無く、疑心の方が先立ってしまった。
「どうして。
じゃあどうして私を抱かないの。
どうしていつも背中を向けて眠ってしまうの。」
彼は机の写真立てと同じあの顔で私を見つめ、言った。
「[愛しい]と[抱く]は、必ず等しいのか。
愛しければ、必ず抱かなければならないのか。」
気迫溢れるその眼差しに、私は黙って見つめ返す事しか出来なかった。
「[愛しいから抱けない]というのは、この世界ではおかしい事なのか?」
手袋越しの彼の温もりを、私は生涯忘れる事はないだろう。
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