第39章
[32]
とうとう神体が目覚めてしまったようだ。よろよろと不規則に床を踏み鳴らす音が迫ってくる。
「ようやくのお目覚めですか。私が離れていたとはいえ小ネズミに後れを取るなどなんともはや」
俺の後方を見やりながら、ため息混じりにパルキアは呟いた。
「急に襲わせるようなことは致しません。ただ、あなたの口の滑らかさによってはうっかりと拘束が弛む、等といった“事故”も起こるやも」
重々しい息遣いを背にかかるほど近くに感じる。ひとたびパルキアが命じれば、空間の断裂を用いるまでもなく俺の体は容易く引き裂かれることだろう。目に見える、より分かりやすい脅しだ。
「何も……知らされてはいないのか?」
アブソルに起こった異変すら伝わっていないのだろうか。俺が問うと、無言でパルキアは背後の神体に目配せする。すぐに後ろから巨大な手が伸び、俺の体はたちまち掴み上げられた。
「質問を質問で返さないこと。余計な手間を取らせないでください。主のご友人であり、私自身も少なくとも愛着をもっているあなたに、こんなことをしたくはないのですよ」
「そのお前の主が、アブソルが腕輪の力を使って倒れたきり、目覚めようとしないのだ。衰弱を治すには、ギラティナは己の力を取り戻す必要があると俺をここに送った」
パルキアは怪訝な表情を見せる。
「力を使って?それは――」
その言葉の途中、急に神体が動き出し、あろうことか自分の持ち主へと爪を振り下ろし襲い掛かった。
「ッ!?」
不意を突かれ、驚愕した様子でパルキアは色鮮やかな扇のようなミロカロスの尾ひれで爪を受け止める。
防がれたと見るや、神体は俺を祭壇の方へと放り投げ、両腕でもってパルキアを押さえつけにかかった。
「私の体を――!く、おのれ、ギラティナぁッ!」
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