第32章
[26]
「機械で――ってことはまさかあの野郎、俺を……!」
黒い犬は何か思い当たったような顔をし、唸り声混じりに呟いた。
「どうかしたかい?」
訝しげにレッドは尋ねる。
「いや、何でもねえよ。それよりもアンタらは何者なんだ? こんな危険な洞窟に来るなんてよ」
黒い犬は表情を取り繕い、誤魔化すようにして聞き返した。
「調査でね。ちゃんと許可も得ている。その質問は、君にも答えてもらいたいところだよ。もう大分落ち着いたみたいだし、
こんな危険な洞窟にいるまっとうな理由をね。君がそうなる前の前後に何があったのかも聞かせてもらいたいな」
レッドの表情は穏やかだが、鍔下の目は射ぬくように黒い犬を見つめている。
焦りの色が一瞬、黒い犬の顔に浮かんだ気がした。
「噂の洞窟がどんなものか気になってな。肝を試すつもりで入り口辺りまで来てみたんだ。
そしたら突然背後から何者かに襲われ、俺は気を失った」
暫しの間の後、黒い犬は答えた。
「何者か?」
「そうだ。それはポケモンだったかもしれねえし、人間かもしれねえ」
黒い犬は探るような目をレッドに向け話す。
「ふうん……目覚めた時の状況は?」
「気付いたら俺はおかしなガラスケースに入れられて、ヤバそうな奴らに囲まれててな。ケースが開けられた隙をついて命からがら逃げ出して来たらこのザマだ。
ああ、俺を囲んでた奴らも人間かポケモンのどっちだったか思い出せねえなあ。何せ必死だったからな。
そういやアンタ、どっかで見た顔だな。有名人かい?」
「一応、リーグのチャンピオンをね」
「そうか、アンタが……。あー、思い出した。俺が襲われたのはポケモンだったぜ。俺をこんな目にあわせたのもあいつに違いない。白くてでかい奴だった。
あんな危険な奴を野放しにしてちゃマズいよなあ。チャンピオンくらいの腕前があれば退治できるかもしれねえが」
急に態度を一変させ、黒い犬は話しだす。勝ち誇って笑んでいるようにそれは見えた。
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