〜第4章〜 黒の男


[51]2012年6月19日 午後7時30分


その衝撃で、数メートル後ろに吹っ飛ばされた白い少女。
すぐに体勢を整え、彼女が両手にある短刀を構える。

「お前が……首謀者か?」

僕は一度ライボルトを下ろし、問いつめた。

「……あんさん、ほんまに悠か?」
「質問には答えないのか」「……その通り、うちが今回のまあ、いわゆる親玉や。うちは逃げも隠れもせんと、ここにおる。殺りあおうやないか、悠」
「……」

僕は何も言わなかった。

「お前は……全て、イクジスに恩を返す為に、こんな惨事を起こしたんだな」
「それが何や。悪いか」
「お前は言った。僕と殺りあおうとな。なら逆に問おう、ツクヨミ。イクジスは、無益な殺生を望んでいると思うか?」
「……何の茶々入れや」
「間違うな、これは【シヅキ】ではなく、【イクジス】の話だ。この意味が分かるな? もうお前は答えを知っているはずだ」
「……」

本当に、どういう力が僕に働いているのだろう。まるで全てを知っているかのような台詞だ。僕だってなんでこんな発言吐いてるのか知らない。僕自らが、勝手に口を動かす。

「イクジスとシヅキは、同じ人物だが中身は違う。お前が骨を砕くほど畏敬の念を抱いているのは、イクジスの顔をした悪魔だ。
ここまで言ってきたことはお前も既に知っているはずだが、なぜそれでもシヅキを敬うのかな」

僕はその台詞を言い終えてから、真実を知った。
僕の知らないことを勝手に喋ったのは一旦置いておこう。
イクジスと、シヅキ
姿が一緒、中身が別。
ということは、清奈に剣を教えたり釣りに行ったりしたあの優男がイクジスだとしたら?
清奈の仲間や家族を殺しタイムトラベラーを次々消していった男がシヅキだとしたら?
なんということだ。
もしそれが正しければ、僕もそうだったが、清奈は大変な誤解をしていることになる。
イクジスは、本当は優しい人間。そのイクジスがまるで操られたかのように変貌した姿が、シヅキ。
それならば、その仮定が真実ならば

イクジスを操ってシヅキに豹変させた、更に大きな敵がいるということになる。

「うちはな」

急に目の前の白い少女が話しだした。

「あの方だけが、うちの唯一の家族。うちの唯一の味方や。うちはあの方以外居場所は無い。うちはイクジスもシヅキも関係あらへん。あの方が例え操られとったって関係あらへん。あの方に恩を返すこと、あの方を封印した憎きタイムトラベラーを狩ること、あんさんが何を言ったって
うちは刀を置きまへん」

ツクヨミは短刀を構えた。

途端白髪が後ろに吹き流れた。
一瞬で僕の懐に現れた。
だが、いかに音速の如く早くても、時間を早く駆け抜けている僕に

傷を与えられる筈が無い。

「どこや!?」

僕を見失い、姿を探す様子が見える。

ガギンッ

僕は空を飛び、鉄屑の山の頂きに着地する。

ツクヨミは、

「っ……!」

左腕を撃ち抜いた僕は、ツクヨミが傷口を抑えているのを目にする。

「その腕では、短刀も持てないだろう。お前はシヅキに良いように扱われているだけだ。これ以上の戦いは、僕にも清奈にも、ここにいる者全員にも、そしてお前にも、無意味だ」

「うあああああっ!!」

ツクヨミは髪を伸ばし、半分逆上したように髪を伸ばした。
僕に、先程の3本を軽く超える怒りと悲しみの白槍が飛ぶ。

「いいか、忘れるな」

白槍が迫る。

「お前が恩を返すべき相手は、その男では無いということを」

終に目前に迫る。

「リフレ フォール アルファ」

白槍が全て弾き返された。

更にツクヨミは、傷ついていない右手で斬りかかろうとした所で

「ツクヨミ」

別の人間の声がした。
ツクヨミの背後に現れたのは、紫色のロボットに乗った小さな男の子。

「相沢悠の言う通りです。ツクヨミは戦うべき相手を間違えています。どうぞ」「ウィズはん……あんさんまでそんなこと、言わん……といてや……」
「ツクヨミ、あなたはこちらにいるべき【人間】ではありません。どうぞ」
「……うちはあの方しか帰る所があらへん。うちは戦うことしか能はあらへんねん!」
「帰る所は、目の前にいるではありませんか」
「……?」

僕はライボルトを下ろした。

「あなたはあちらにいるべきです。イクジスをシヅキにたらしめた、真の悪と戦うべきでは無いでしょうか、どうぞ」








「うちは……」

何かを言おうとしたが、すぐに声がかき消えた。

なぜならば、

ツクヨミはその綺麗な瞳から、

一粒の涙を溢していたから。



血を流し、涙を流しているツクヨミと呼ばれた少女は、もはやネブラのような無機質な物ではなかった。


「ウィズはん」
「……なんですか」
「うちはソディアックを抜ける。後釜はあんさんや。うちは、外の風に触れて、ゆっくり考え直したい」
「……それが、ツクヨミの意志ならば、構いません」


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