〜第4章〜 黒の男


[49]2012年6月19日 午後7時11分A


タイムトラベラーになって僕は早くも3ヶ月たった。それまで、大なり小なりいろんな事があった。
清奈とハレンに初めて出会ったり。
パルスを拾いタイムトラベラーへの道を歩みだした。その瞬間、僕の日常が明らかに変化した。
ネブラとの戦い。
僕が高校生になったら、こんな風に戦うことが運命づけられていたのなら
残酷、だろうか。
いや
僕はそう思わない。

《呪標……解放》

途端に流れだした魔力。
突きもせず吹き出す泉にも似ている。
ライボルトが熱くなってきた。
あちこちに時間が流れている。空間に現れた緑色の点々。
そうだ、この感覚は。
一度だけ、現れたことがある。記憶には残ってなくても、僕の本来の姿が戻るのにそう沢山の時を必要としない。
悠久の時、全てを覆い
悪しきもの、全てを裁き
清きもの、全てをもたらす。
僕が、その力を得るとき
この世に2文字が刻まれる。

超動――――






僕の目の前にあるもの全てが、意のままに動かせるような膨大な力だ。

「……ぬぅ……!?」

前方にいる巨大な鋼の肉塊。
周囲に散らばった看板や鉄屑を横に吹っ飛ばした。
その動作を、ただ【思う】だけで完遂する。

「貴様ぁ……!!」

立たずんていた。
白いコートは、背にいつのまにか、黄金に輝き飛翔する不死鳥が宿っていた。

目が、青から、緑に変わる。

時が視える。

伸びてきた腕。
掴みかかろうとしたのだろうか。
笑わせる。

「……っがあっ!!」

伸ばすという動作を脳が指令している頃には、もう遅い。
狙ったのは腕のつけ根。
1ミクロンもずれなく肩の関節部分を撃ち抜く。

「……ぐっ……が……」

今度は足で横に蹴ってきた。それも遅い。遅すぎる。

「……どこだ!!」
「背後だ、ネブラ」

そう喋ることも分かる。
遅い、遅い、遅い。
いや、これは
僕が、あらゆるものより早く時間を駆け抜けているのか。

「なぜ当たらないか、分かるか。ネブラ」

僕の意思とは反し、口が開いた。

「僕はお前と一緒の時にいない」

時間を先走っている。

「僕はお前の目の前に存在しているが、同じ時間にはいない」

何度も反芻し記憶した台本のセリフでも読みあげているように、僕の口が勝手に動いた。

「黙れぇっ!!」

当たりもしないことを分かっている癖に僕に向かって拳を飛ばす。
奴の可能な限りの素早さで。
甚だ……笑止だ。

「……うがっ!!?」

肩の関節をもう一度貫き、奴の腕が肉の山脈から削り取られた。

「うごおおおぉぉぉ!!」
伐採された巨木のような太さの腕が倒れ、少し地面が揺れた。

「こんなものか? 弱者は殴り飛ばせても、強者には何者にも劣るな、お前は。所詮お前たちネブラはその程度だ」

またも勝手に動く口。しかし、操られているという感覚は未塵もない。僕の意思なのかもしれない。

片腕を無くしたネブラ。

「きさ……ま……! 雑魚の分際で……!」
「今の僕を雑魚と呼べる程戦う気力も残されていたということか。じゃあ、そろそろ反撃すればいいじゃないか。雑魚と呼べるのなら手はあるのだろう?」

狂ったように叫びながら僕に向かって突っ込んできた。

「俺が……!」

距離にして10メートル

「貴様に……!」

距離にして5メートル

「負けるかーーっ!!!!」

3メートル。
もう僕は勝ちを認めていた。
時間を乱し
平穏を乱し
尋常ない数の生命を奪った破壊者に、断罪する。

天理明光の精霊よ。
災厄もたらすものに等しき終末を。
この世に無限の、そして夢幻の光を照らし給へ!!

「ブレイヴ……!」

放たれる。
それはもはや人間の知を越え、宇宙に瞬く超新星だ。

「オーロラ!!」

ライボルトの銃口から突きもせず吹き出す聖なる光が包まれた……


「……この程度……!」

巨体の体が徐々に形を失っていく。

「効かんわああああああっ!!」

怒号が聞こえる。
僕に滅ぼされるなんて思いもしなかったのだろう。
まさか、僕ごときに滅ぼされるなんて、有り得ないと思っていたに違いない。
だが、僕は悪と戦うのなら、猛る獣の爪にもなり、全能な知の翼を伸ばし、僕の持つ全ての力を以て闇を切り裂く。
僕は必ず、勝つ。

「……ぐおおおおお! ああああああ! おあああああっ!!」

喉が破けそうな大声。
音は空気を振動させる。
その振動は、今にも崩れ落ちそうな駅に確かなダメージを与えるほど。

「この……おれがああああぁぁぁっ!!」

しぶとい。
だが僕はまだ余力がある。今、目の前にいるネブラの罪を裁く!

「……チェックメイト」

そして、僕が出せる最大の攻撃を波のように奴に浴びせた。
怒号が小さくなり、だんだん眩い光で姿も見えなくなっていった。


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