〜第4章〜 黒の男


[27]朝8時58分


「じつはな」

まあ、聞かなくても大概分かる。

全身筋肉痛に精神的重圧がかかり、更に物理的な負荷がかかったってことだろ。

高校生に群がられて危うく圧迫死しかけたということだろう。

ふと思う。

ある程度の犠牲を払うことになると十分理解していた。地雷を踏むことは覚悟していた。ただ、その地雷は対人用ではなく、対戦車用の超巨大なものだったようだ。

失神て、おい。
誰がそんな予想するか?


「……全く、無茶する奴らばかりね。死んだらどうしようかって思ったわよ」

童顔、中学生、付け加えると毒舌の保健室の先生が呆れ顔で喋る。年齢不明、詐称疑惑が一部で上がっている。まあ他の人に比べたら圧倒的にましなわけだが。
「家に親いる?」

立ちながら言う先生。

「いや、今の時間は家には誰も……」

「いないのね。あっそ」

ベッドを囲むカーテンを乱暴に開けて机に向かう先生。

「悠にぃ」

小さな声で僕にささやくふっくん。

「やばいぞ、おまえはクラスの男子、いや、俺らの学年全員の男子を敵に回してしまったぞ。明日からどうやって生き抜くんだよ?」
同じことを考えてましたよーふっくん。
「どうしろって言われてもなあ……」

「てか、マジなのか?」

「マジだ」

ふっくんは、まだ信じられないらしい。

「おい、相沢! 大丈夫か!」

保健室に響き渡る原田の声。

「やばいやん! お前知らんで! 明日から!」

同じことを考えてましたよー原田。

「うるさい、黙れ!」

続いて先生の罵声。
そしてふっくんの隣に回る原田。

「お前達も怒ってる、よな?」

聞いてみる。

「うん、怒ってる」

と二人同時に即答、
だが

「でも、俺は潔く諦めるわ」

そう、
ふっくんが言ってくれた。

「奇遇やん福原。俺も同じこと考えとったわ」

お前ら……!

「まあ、正直かなりショックや。でもな、同じ【空川さくら同盟】の一員やし、祝ってやろうやないか!」
頭をボンボン叩く原田。
ああ、良かった。
とりあえず、味方はいるらしい。友達って持つものだなあ。

「それはおいといてや。どないする? 他の男子からめっちゃカマかけられるで」

「まあ……そうなったら出来る限り守ってやるしかないだろうな」

ふっくんが頭をかきながら言った。

「ところで、どういういきさつでさくらちゃんと?」

それは……




「でかした、と言ってやれ。妹に」

一通り聞いて帰ってきた返事はこれだった。

「うらやましいで、俺んちはまだ鼻タレのガキばかりやからな」

原田は下に兄弟が5人いるが、そういうことに気が回らない。一般的に「おませ」なのがいないそうだ。

「やっぱり、感謝するべきなのか?」

「当たり前だろ。絵夢、だったっけ? 絵夢がいなけりゃ今は無いぞ」

まあな……
幸福と不幸が同時に僕にふりかかったその元凶はあいつだ。

天使か悪魔、どっちだ、あいつは。




今日は一日じゅう、保健室にいることになった。
正直、このまま意識を失い永遠の眠りにつくかと思ったぞ。体もボロボロだしな。
目が覚め、また寝て、を繰り返し、ようやく昼休みになった。

「先生」

「なんだ相沢」

「弁当を教室に置き忘れたので取りにいって頂きませんか」

「なに? 貴様! 私に命令するのか!」

ビシッと僕に指を差し、罵声を浴びせた。保健の先生が2人称を貴様にするってどんだけ。

「お願いします」

「やだね! 私はこれから【笑っていいとも】を見るのだからな!」

「じゃあ……弁当をとってきてくれるかな?」


「いいとも!」

「じゃあ宜しくおねがいします」

「な……貴様、ハメたな!」

またも指をさして、怒りを露にする先生(確認する、見た目は絵夢と変わらない年だ)

「私は行かんぞ! 貴様の為なんかに私の至福のひとときであるテレビ鑑賞を奪われてたまるものか!」

「美人のお姉さん、ぜひとも僕の為に弁当を持ってきてください」

と言ってみる。

動きが止まった先生。

「あっはっはっは! 仕方が無いなあ、ならばいい子な相沢の為に、私が取りにいってしんぜよー」

そう、それはそれは、演技ではなく、素で嬉しく思ったらしく、ダッと走って保健室から出た。

いち高校生の目から見た、大人(ということにしておこう)への感想。

単純だな。



「ほら! この通り持ってきたぞ!」

ダダダという効果音とキキーッという止まる効果音が今にも聞こえるかのように帰ってきた先生。

「相沢の為に超頑張ったぞ! さあ、ありがたくこの弁当を食うがいい!」

作ったの僕ですけど。
まあいいか。

「とゆーわけでだ、きっちりと礼をして貰わねばなるまいな!」

報酬はなんでしょう?
いや、聞かなくてもいいや!
何やら欲しそうな目を向ける先生。

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