〜第4章〜 黒の男


[22]時刻不明 無刻空間…


「次戦う相手はタイムトラベラーの中でも最高クラスの奴やろ? だからそいつを消したら……うちも救われる……あの方が復活なさって恩を返してやれる……」

「今回は鍵を持つ者との戦い、勝ったら、ツクヨミがあの方の封印を解けばいいのです。私が全力でサポートしましょう、どうぞ」

ツクヨミは、笑った。
それは、ネブラとは到底思えないような、可愛らしい笑顔。

「ありがとな、ウィズ。うちは負けへん。絶対に勝って、あの方を復活させるんや。約束な」

「分かりました、どうぞ」


ツクヨミは、虐待され親に捨てられた。


それは今の6月と同じ、雨がザアザアと降っていた日だった。

ごみ捨て場の側で、傘も差さず、服もボロボロの少女が一人座っていた。

だから、皆から、ツクヨミはゴミと間違えられた。

石を投げられた。
間違えないでほしかった。そして気づいてほしかった。

彼女が欲しかったのは、石では無いことを。
僅かなお金の為に、色んなことを我慢したことを。
一生懸命働いた。
飛んでくる鞭が怖かったけど、頑張った。
体を売ったことも、何度かあった。それでも我慢した。

でも、いくら頑張ってもちょっとだけしかお金も無い。
後になって彼女が気づいたこと。
彼女が欲しいものはお金で手に入らないことだっていうこと。
いくらお金を溜めても、優しさは買えなかった。

そして
ある日のこと。

ある男の人は
石じゃなくて、
美味しそうな、パンをくれた。

本当に美味しかった。
美味しすぎて、涙が出た。彼女をゴミと間違えなかった。
自分は人間なんかに産まれて来るんじゃなかった、そうおもったけど、あの方がいればそんなくだらないことも忘れられる。

それから彼女はあの方と一緒に暮らした。
やっと彼女は幸せになれたと思った。
毎日が楽しかった。
昔の生活が嘘みたいに、一晩の悪夢だったんじゃないかと思ったぐらいに。

でも……




あの方が封印された。
タイムトラベラーという人達によって。

彼女はその人を強く憎んだ。
タイムトラベラーも、人間だった。
彼女がやっと
やっと掴みかけた幸せを
粉々にした。

だから、早く封印を解かないといけない。
鍵が欲しい。
あの方が復活するために必要な鍵、それを手にいれたい。そして、もう一度あの幸せを掴みたい。

だから、ツクヨミはこう思うのだろう。
あの方の為なら
人を殺すのを躊躇わない。体がいくら壊れても
幸せの為なら、どんなに辛くても乗り越えると。


「ほな、いこかな」

ツクヨミが立ち上がった。また、幸せが掴めることを信じて。


ウィズは再び自らの部屋に篭って、マシンガンのようにキーボードに字列を打ち込んだ。

彼は工学にも優れている。彼の目の前で赤いライトが光る。
まるで生き物の目、
それは間違いなく、タイムトラベラーを倒すための兵器だった。

「蓬莱珠玉の雷使いさえ倒せば、我々の勝利は確実だ……だから……」

爆音のように響き渡る起動音。

それを、じっと見上げるウィズがいた。

「この兵器ならばあの戦姫を倒せる……はずですね。」

その兵器に乗り込む。
球に手足を付けただけに見えるシンプルな形だが、中には数々の兵器が仕込まれているのだろう。

「嫌ですね……ツクヨミ以外のネブラと組むのは……あの乱暴、いえ、反則と上手くやることなど誰も出来ないというのに……」

ウィズは一人ごとを言う癖があるらしい。

その頃、反則はというと。




大理石の柱の欠片がごろごろ転がる。
部屋の大きさは、体育館とあまり代わりない。

その巨体から伸びる手が、石灰の塊を掴み、砂のようにぼろぼろと崩壊する。

「脆い」

そう言う。
側にあったのは、人間の形をした蝋人形だ。
目が飛び出ていて、口も突きだしている。何とも奇妙な顔だ。
そう、彼にとって人間はこんな感じに見えるのだろう。


口角がつり上がる。
そして親指と人指し指でその中の1つの人形をつまみ上げる。その姿は、
そう、長い髪と瑠璃色の目。
清奈だ。

そして、その巨体の手で清奈人形を掴み、

グシャリという、普段あまり聞かない音を耳にする。
ゴト、と
辛うじて残っていた髪の毛の部分が落ちた。

「笑わせる、こうしてくれようか、戦姫……クハハハハ!」

大きな口で笑うからか、笑い声を轟音と勘違いしそうだ。
みし、と部屋が軋み、窓の側の木に止まっていたカラスが飛びたつ。
不吉な未来を予感させるカラスの鳴き声。
その目が、赤く光った。

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