〜第4章〜 黒の男


[21]時刻不明 無刻空間…


ツクヨミ!! ツクヨミ!!

鋼の要塞に響き渡る機械音のような鳴き声。その声の主は一匹のコウモリだった。超音波がもし聞こえたらこんな声なのだろう。

「はいはい、はいな。なんやねんな?」

白く滑らかな布地に包まれた服は、いかにも活動的で、袖は脇が見えるほど短い。そして髪は非常に長く、踵まで届くほど。そしてそれも同様に白かった。
そこは銀と灰と黒しか無い、そのせいか、その少女は異様に目だった。

彼女の名は……

「ツクヨミ!!」

「返事しとるやないか、なんやねんな?」

「これ! これ!」

「なんやこれ?」

ツクヨミと呼ばれた少女は、コウモリの足に結ばれた羊皮紙の切端を外し、書かれた文字を見る。

「そろそろ動くみたいやな。一緒に行くのは、ウィズはんと……うわ」

書かれていた名前は

「あの下道と一緒かいな。今回は結構本気らしいな」

ツクヨミは大広間にきていた。天井でろうそくの灯りのみのシャンデリアが光る。
いよいよ、動き始めるからだ。

「そろそろ行くわけやな?」

「その通りです、勝率は現在の所70パーセント。標的のデータが取れたからには、いい結果が期待できると考えられます、どうぞ」
「さすがはウィズはん。ウィズはんさえいたらうちらの勝ちも同然やね」

「そうです。ツクヨミは全てを私にお任せさえすればいいのです。どうぞ」

「目的は彼らの持つ鍵……。うまい具合にいけば2つも集まるやないか。そないなったらうちがソディアックで一番になるのも夢や無いかもね」

ツクヨミが笑顔で言う。

「残念ながらそれは有り得ません。私が一番になるのですから、ですから貴方はニ番です。どうぞ」

「相変わらずやな、あんさんも」

すると

「無駄口を叩くな」

重苦しく、固く、冷たい
鋼そのものの声が響きわたった。


そうして現れた男は、やはり肉体を鋼に変えた男だ。

「俺と組む奴が女と餓鬼か。笑わせるな」

それは、二人の背を遥かに越える巨体だった。
額から目に赤い傷が光り、歯が全て牙と言えるほど鋭利、そして巨体にふさわしい巨大な口だ。
そして腕が異様に太く筋肉質だった。

「ソディアックでも何でもない、只のネブラに言われたくあらへんなあ、ラファスタ? 言葉に気をつけや?」

ツクヨミはそんな男の威圧感に怯むことなく言う。ウィズはツクヨミ以外の言葉は聞く耳を持たないようだ。

「黙れ、人間風情が」
そのセリフをラファスタという巨人が言った。

途端

「何やと? ラファスタ」

ツクヨミは
ラファスタを睨む。

「人間が俺にでしゃばるな。笑わせる」

「うちが……【人間だって?】」

「その通りだろう。ここは【刈られる生き物が群れる】場所ではない。場違いだな」

ツクヨミは
冷たい視線をラファスタに向ける。
本来の彼女の姿の、その片鱗を見せる。

ヒュッという風を斬る音。一陣の風のように素早く抜き、そしてラファスタの胸に、小刀を当てがうツクヨミ。

「次【人間】と言ったら、ただじゃおかへんで、ラファスタ」

「おお怖い。それでは、自重させて頂こう……ククク……」

ラファスタが苦笑するように笑う。ツクヨミのことを恐れていない。寧ろ、自分より弱いものが強がって抵抗している、ように、見えるらしい。

人間は、ネブラにとって、猿の少し知恵がついただけとしか考えていない。いや、それ以下なのかもしれない。

まだ笑うラファスタ。

「……おおきに」

またも素早い動きで鞘に小刀を差す。







人間だ……人間だ……

それが彼女の嫌うセリフだ。自分が人間だということがトラウマである少女。
その名は、ツクヨミ。

名前を持たない彼女は、携える双刀の銘が彼女の名前になった。

月詠、という双刀を。






「何故、ツクヨミは人間なのですか? どうぞ」

ツクヨミは、人間であるが故に
ウィズはその性格が災いを呼び、
共にネブラから除け者にされた二人、だから仲良くなれたのかもしれない。

ツクヨミはロッキングチェアに座り、足を組む。

確かに服は白く、肌も綺麗で血色も良く、肌触りも滑らかなのだ。
確かに、人間に見えた。

「別に気にしてへんで? だから気にせんでええからな?」

「答えてくれませんか? どうぞ」

「……うちは親に捨てられてネブラに拾われたからや、あの方にな」

「それだけですか? どうぞ」

「……いくらウィズでも教えられへんことはある。色々あってここにおる。色々あって、ソディアックになれたんや。不思議やね、ほんまに。やから、うちらがタイムトラベラーを滅ぼしたら、もううちは戦う必要も無くなるしな」

「人間なら、人間の世界に住んでしまえばいいのでは? どうぞ」

「無茶言うなや。うちはあの方に助けてもらった恩を返さなあきまへん。それに行った所で帰る場所もあらへんし」

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.